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『オデュッセイア』ノーラン作品のすべてが収束する地点、そして新たな出発点へ

photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.

『オデュッセイア』ノーラン作品のすべてが収束する地点、そして新たな出発点へ

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“ヒーローズ・ジャーニー”の原型を再創造する



 「魔法とおぼしきものが存在した時代……(A TIME OF APPARENT MAGIC …)」――『オデュッセイア』はこのテロップから幕を開ける。誰もが「遠い昔、はるか彼方の銀河系で……(A long time ago in a galaxy far, far away….)」で始まる『スター・ウォーズ』シリーズのオープニングクロールを連想するだろう。実際、ノーランは少年期にシリーズ第1作『スター・ウォーズ』(77/監督:ジョージ・ルーカス)に決定的な衝撃を受けたようで、今回の冒頭はオマージュだと明確に認めている。


 そんな本作の全体を貫くのは、まず原典から受け継がれた二つの主題——ノストス(帰郷)とクセニア(客人歓待)である。紀元前8世紀頃に古代ギリシャの吟遊詩人、ホメロスが作ったとされる12,109行の叙事詩「オデュッセイア」は、トロイア戦争への出征から故郷イタケへの帰還までの、苦難の道のりを描く“ヒーローズ・ジャーニー”(英雄の旅)の最も古典的なモデルだ。これは神話学者ジョセフ・キャンベルが提唱した物語構造で、主人公が日常から非日常へ踏み出し、試練を経て変容し、再び帰還するという普遍的な旅路を指す。


 本作では前日譚の「イリアス」も加え、主演のマット・デイモンが身体的知性と倫理的負荷を兼ね備えて再文脈化し、『ジェイソン・ボーン』シリーズ以来のアクションヒーローぶりをも示す。オデュッセウスの20年に及ぶ漂泊は、この構造の原型そのもののフィルムゼーションだと言っていい。



『オデュッセイア』photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.


 ノストス(帰郷)の主題は、ノーラン作品の歴代の主人公像とも深く響き合う。『インセプション』(10)の産業スパイとして、夢の階層世界に潜入するドム・コブ。『インターステラー』(14)の宇宙飛行士ジョセフ・クーパーは、人類を救うために娘を残して宇宙へ旅立つ。この瞬間から彼は帰郷の不可能性を生きる主人公となる。そして『オッペンハイマー』(23)の物理学者であり、原爆を開発したことで後戻りできなくなったJ・ロバート・オッペンハイマー。彼らは皆、使命や罪責、あるいは選択の代償によって“帰りたいが帰れない”者だった。『オデュッセイア』はそのテーマの源泉に立ち返った根幹からの再創造だ。


 クセニア(客人歓待)は、劇中では「ゼウスの掟」として示される。旅人や見知らぬ者を等しくもてなせ——彼らは神々が姿を変えて訪れるかもしれない。古代ギリシャの倫理がねじれ、そのため王妃ペネロペは望まぬ求婚者たちを“客人”として迎えざるを得ない。王宮が粗暴な求婚者たちで包囲されるその状況こそ、掟の崩壊と倫理の歪みの縮図となっている。





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