1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 我々は宇宙人
  4. 『我々は宇宙人』地球人のふりを覚えるまでの三十年の軌跡 ※注!ネタバレ含みます
『我々は宇宙人』地球人のふりを覚えるまでの三十年の軌跡 ※注!ネタバレ含みます

©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

『我々は宇宙人』地球人のふりを覚えるまでの三十年の軌跡 ※注!ネタバレ含みます

PAGES


見上げる者と、見下ろす者



 翼もまた、無傷ではいられない。いくら輪郭を取り繕っても、ドロドロした内実はどうしようもなく滲み出てくる。それが一滴の赤となって噴き出すのが、中学生になった翼の場面だ。殴られて鼻血を流し、トイレにこもる。白いトイレットペーパーに、ポタリと血が落ちる。巻いても巻いても、赤が滲んでくる。


 中学3年の夏、翼はランドセルの底から一枚の折り紙を見つける。傘を壊したあと、仲直りしたかった暁太郎がこっそり入れていた手紙だった。そこには、「かさをこわしてごめんね、またあそぼうね」という謝罪の言葉。翼がそれに気づいたのは、6年も経ってからだった。


 時は流れ、翼は大人になった。同級生の結婚式の帰り道、翼は思いがけず暁太郎と再会する。暁太郎が立っていたのは、幹線道路の高架の真下。しかも子ども時代とまったく同じ格好のまま、道路の上にいる翼を下からじっと睨みつけている。翼は上に、暁太郎は下に。シーソーが傾いたあの日から、二人の位置関係は何ひとつ変わっていない。



『我々は宇宙人』©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS


 そして大人の暁太郎が画面に現れたその瞬間、ようやく『我々は宇宙人』というタイトルが映し出される。えっ、ここで? そう、ここまでの翼の物語は、長い長い前置きに過ぎなかったのだ。ここから映画は、同じ出来事を、今度は暁太郎の目で語り直していく。すると、翼の視点からは見えていなかった事実が明らかになる。


 暁太郎が大人になっても大切に保管し続けていた、小夏からのラブレター。それは実は、翼がいたずらで入れたニセモノだった。謝罪の手紙は届かず、ニセのラブレターだけが届いてしまう。暁太郎は何ひとつ本当のことを知らないまま、大人になるまでの長い年月を生きてきた。


 その結果が、ボロボロの暮らしだ。暁太郎は定職に就けず、ティッシュ配りのバイトではノルマをごまかす。配るはずだったポケットティッシュを四畳半の部屋に溜め込み、その山の中にもぐり込む。手紙が届かなかったせいで人生を狂わされた男が、今度は自分が「配る側」になって、ティッシュひとつ配れずにいる。


 子どもの頃、暁太郎は自己紹介カードの「将来の夢」の欄に「考古学者と地しつ学者」と書いていた。どちらも、地面の下に眠る過去を掘り起こす仕事。その少年が大人になって、小学校時代の出来事を何度も掘り返しては、そこから一歩も抜け出せなくなっている。


 自分の人生が狂ったのは、全部お前たちのせいだ。そう信じ込んだ暁太郎と翼が、雨の中で向き合う。このシーンの緊迫感はすさまじい。もうほとんど、殺人事件の一歩手前。門脇監督が絵コンテで真っ先に描いたのは、のちに暁太郎となる人物が、雨の中からこちらを見つめる顔だったという。この映画は、この一枚の画に向かって組み立てられていたのだ。


 この雨の夜を経て、暁太郎はようやく真相を知り、子ども時代の呪縛から解き放たれることになる。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 我々は宇宙人
  4. 『我々は宇宙人』地球人のふりを覚えるまでの三十年の軌跡 ※注!ネタバレ含みます