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ヒッチコック唯一の3D映画『ダイヤルMを廻せ!』から読み解くヒッチコックと3Dの関係

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

ヒッチコック唯一の3D映画『ダイヤルMを廻せ!』から読み解くヒッチコックと3Dの関係

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50年代の3D映画は過剰演出だったのか?



 ではスポトーの言う「3D映画の奇態なからくり」というのは、どの程度影響したのだろうか。先ほど述べた『肉の蝋人形』では、蝋人形館の呼び込みがカメラに向かってパドルボールをバンバン打ちまくるシーンが有名である(ドリームワークス・アニメーションの『モンスターVSエイリアン』(09)にパロディ描写も登場するほどだ)。この映画を監督したアンドレ・ド・トスは、西部劇『叛逆の用心棒』(53)でも、南軍ゲリラが町を襲うシーンにおいて、松明やピストルの銃口を観客に真っ直ぐ向ける演出を行っている。


 またラオール・ウォルシュ監督の西部劇『限りなき追跡』(53)では、クライマックスの対決シーンにおいて敵が主人公に棒や岩を投げ付けてくるが、これがやはり真正面の構図になっている。ちなみにド・トスもウォルシュも隻眼であり、自分で立体効果を確認することはできなかったから、想像で構図を決めるしかなかったと思われる。


 ただしこういった「いかにも3D」といったシーンは、映画全体との比率で言えばわずかなものである。例えばカーティス・バーンハート監督の『雨に濡れた欲情』(53)などは、わざとらしい構図は皆無で、黙っていたら誰も3D映画だったことに気付かないだろう。つまり50年代の3D作品の多くは、世間で言われているほどには立体感を強調していないのだ。(*8)


*8 むしろベタな飛び出し演出の乱用は、『Ape』(76)、『ジャッキー・チェンの燃えよ! 飛龍神拳/怒りのプロジェクト・カンフー』(78)といった70年代の作品や、『荒野の復讐』(81)、『秘宝の王冠』(83)などの80年代作品に目立つ。



ヒッチコックの3Dに対する姿勢



 では実際の所、ヒッチコックはどれほど3Dに真剣に向き合っていたのだろうか。そのことを確かめる撮影中の貴重なインタビューが、淀川長治氏が編集長を務めた雑誌「映画の友」(1954年2月号)(7)の、「ヒッチコック3D映画を作る」という記事に載っている。この中でヒッチコックは、「3Dやワイドスクリーン、あるいはシネマスコープがスリラーに向かないというような意見にも、ボクは賛成しないね。立体映画で奇手を弄するというやり方はむしろ優しい。そういう場面を今度の『殺人にはダイアルMを』(原文ママ)でも考えているが、それが全てではないのだ。むしろ、空間の強調によって生ずるサスペンスの強味というものの方が大事だと思う。しかし、本当の所は3Dであろうがなかろうが、良いストーリーで良い映画を作らなければ意味がないということだけは確かだね」とコメントしている。



『ダイヤルMを廻せ!』(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.


 この文からヒッチコックは、最初こそ気乗りしていなかった3Dだが、いざ始めるに当たって、かなり真剣に取り組んでいたと推測されるのだ。


【参考文献】

(1) Bob Furmanek/Greg Kintz 著: “An In-Depth Look at DIAL M FOR MURDER”

(2) フランソワ・トリュフォー/アルフレッド・ヒッチコック 著: 「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」晶文社 (1981)

(3) ドナルド・スポトー 著: 「アート・オブ・ヒッチコック‐53本の映画術」キネマ旬報社 (1994)

(4) ロバート・スクラー 著: 「アメリカ映画の文化史‐映画がつくったアメリカ〈下〉」講談社学術文庫 (1995)

(5) 大口孝之/谷島正之/灰原光晴 著: 「3D世紀‐驚異! 立体映画の100年と映像新世紀‐」ボーンデジタル (2012)

(6) フレデリック・ノット 著: 「ダイヤルMを廻せ! (論創海外ミステリ211)」論創社 (2018)

(7) 「ヒッチコック3-D映画を作る」「映画の友」映画世界社 (1954.2)



文: 大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル 第1集』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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『ダイヤルMを廻せ!』

DVD 特別版 ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

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