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『ダイヤルMを廻せ!』ヒッチコックは意外にも新技術好きだった!?

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

『ダイヤルMを廻せ!』ヒッチコックは意外にも新技術好きだった!?

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3D版の一般公開と、ソフト化の変遷



 批評家や観客たちも、実際に3D版を鑑賞できなかったことで、ヒッチコックが仕掛けた巧妙な3D映像設計を確認できない状態が続いた。そしてその機会は、1979年のウェストハリウッドのティファニー・シアターまで待たなければならなかった。この興行結果が好評だったことから、シカゴ、シアトル、サンフランシスコ、フロリダ、ココナッツグローブ、ニューヨークなどで上映された。


 ワーナー・ブラザースは1982年に、シングルストリップ式サイド・バイ・サイドのプリントを作り、フランスやオーストラリアで上映している。残念ながら画質は非常に悪く、左右のアラインメントの調整も不十分だった。このバージョンを鑑賞したと思われるのが、映画評論家の山田宏一氏で、和田誠氏との対談「ヒッチコックに進路を取れ」(14)の中で「パリで何年か前に初めて『ダイヤルMを廻せ!』を3Dで観た」と語っている。また同書において和田氏は「いやいやながら3Dで『ダイヤルMを廻せ!』を撮ったとは言ってるけど、実はけっこう面白がって(笑)、少なくとも面白く撮ってるよね」と述べている。


 映画祭関連では、ハリウッドのエジプシャン・シアターで2003年9月12~21日と2006年9月8日~17日に開催された「The World 3-D Film Expo」において、オリジナルのデュアルストリップ版が上映された。これはフィンランドで2005年6月17日に開催された「Midnight Sun Film Festival」(白夜映画祭)でも上映されている。


 変わった所では、1990年にオープンしたユニバーサル・スタジオ・フロリダに、「Alfred Hitchcock: The Art of Making Movies」というアトラクションがあり(現在は閉鎖)、ここで『ダイヤルMを廻せ!』3D版の一部(及び『』の一部の3D変換映像)が上映されていた。



『ダイヤルMを廻せ!』(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.


 日本では1986年に、日本ビクター(現・JVCケンウッド)から立体VHD(*12)用のソフトとして発売されている。他の国内事例としては、2010年11月6日に東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)で開催された「ユネスコ『世界視聴覚遺産の日』記念 3D映画の歴史~3D(立体)映画の知られざる歴史をたどる」というイベントにおいて、ミュンヘン映画博物館のシュテファン・ドレスラー氏による講演で一部が3D上映されている。


 そして2012年11月に、待望のBlu-ray 3D版が発売された。これはオリジナルのデュアルストリップ版を基に、上下方向の位置ズレなどをデジタル修正し、ワーナーカラーの色彩も完璧に再現されている。これによって、本来ヒッチコックが目指した形での鑑賞が初めて可能になった。(13)


*12 VHD(Video High Density Disc)は、1978年に日本ビクターが開発した溝なし静電容量方式のビデオディスク規格。1986年に日本ビクター、シャープ、松下電器産業の3社から3D対応プレーヤーが発売された。60Hzのフィールドシーケンシャル方式(片目30Hz)で、液晶シャッター・スコープで鑑賞する仕組みだったが、フリッカーがひどく、長時間の観賞にはまったく適さなかった。



【参考文献】

(1) “Dial "M" for a stunning 3D restoration”Park Circus (January 28th 2013)

(2) ドナルド・スポトー 著: 「アート・オブ・ヒッチコック‐53本の映画術」キネマ旬報社 (1994)

(3) 大口孝之 著: 「合成技術の歴史⑤」「映画テレビ技術」(2018.1) 日本映画テレビ技術協会

(4) フランソワ・トリュフォー/アルフレッド・ヒッチコック 著: 「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」晶文社 (1981)

(5) 大口孝之 著: 「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社 (2009)

(6) 大口孝之 著: 「オプチカルプリンターの誕生」「別冊映画秘宝 特撮秘宝 Vol.6」洋泉社 (2017)

(7) 大口孝之 著: 「合成技術の歴史⑨」「映画テレビ技術」(2018.5) 日本映画テレビ技術協会

(8) 大口孝之 著: 「合成技術の歴史⑩」「映画テレビ技術」(2018.6) 日本映画テレビ技術協会

(9) アルフレッド・ヒッチコック 著/シドニー・ゴットリーブ 編: 「ヒッチコック映画自身 リュミエール叢書32」筑摩書房 (1999)

(10) LD「SFX最前線 ムービー・マジック ファイル3/3: マット・ペインティングからワイヤー・ワークまで、SFXショットの全て」アミューズ・ビデオ (1994)

(11) 大口孝之/谷島正之/灰原光晴 著: 「3D世紀‐驚異! 立体映画の100年と映像新世紀‐」ボーンデジタル (2012)

(12) フレデリック・ノット 著: 「ダイヤルMを廻せ! (論創海外ミステリ211)」論創社 (2018)

(13) Bob Furmanek/Greg Kintz 著: “An In-Depth Look at DIAL M FOR MURDER”

(14) 山田宏一/和田誠氏 著: 「ヒッチコックに進路を取れ」草思社 (2009)



文: 大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル 第1集』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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『ダイヤルMを廻せ!』

DVD 特別版 ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

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