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『12モンキーズ』ギリアム流タイムトラベルに埋め込まれた、ヒッチコック『めまい』の遺伝子

『12モンキーズ』ギリアム流タイムトラベルに埋め込まれた、ヒッチコック『めまい』の遺伝子

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脚本家のピープルズ夫妻に直接的な影響を与えた『ラ・ジュテ』



 一つは1962年にフランスで製作された短編映画『ラ・ジュテ』である。写真家でもありジャーナリストでもあるクリス・マルケル監督(1921〜2012)が手がけたこの映画は、全編モノクロのスチール写真で構成されたたった28分のシンプルな作品ながら、感性を鋭く貫くSF映画の傑作として今なお多くの人に愛されている。


 『12モンキーズ』の脚本家夫妻(デヴィッド&ジャネット・ピープルズ)がこの『ラ・ジュテ』にインスピレーションを受けて脚本執筆したことは95年の公開時にも大きな話題となり、観客が元ネタを求めこぞってこの短編を見たがったのを覚えている。


 序盤に少年が空港で一人の男の死を目撃する場面、そこで目にした美しい女性の微笑みに何十年も囚われ続ける設定は、『12モンキーズ』でもほぼオリジナルのままと言っていい。そこから崩壊してしまった地球を救うべくタイムトラベル実験が行われる点も一緒だ。


 ただ、『ラ・ジュテ』では手の込んだマシンに身を沈めるのではなく、もっと簡易的な意識実験のような方法で、過去や未来へと時間旅行を繰り返していたのが印象的だった。そして、崩壊した世界を舞台にしながらも、どこか過去へのノスタルジーや人間の温もりにあふれ、とりわけ男女の愛に満ちたやりとりの中で、一瞬だけ静止画像が動きだす瞬間には自ずと涙がこぼれたものだ。このくだりを含めて、本作は「テクノロジー型」には分類できない、人の意識をたゆたうような不可思議な魅力に満ちている。



 実を言うと、『ラ・ジュテ』を手がけたクリス・マルケルは映画『12モンキーズ』の製作にも何らかの形で関わる予定だった。しかしハリウッドでの仕事ゆえ、取り交わすべき契約書だけでも膨大な量になったのを理由に「1ページで書ききれないような条件なら、この話は水に流す」(*1)と降板してしまった。ただ、両者の関係が悪化したというわけではなく、ついに『12モンキーズ』が完成した時にはその仕上がりにたいそう満足して、ギリアムたちの苦労を心からねぎらう電報を送ってくれたらしい。


 ちなみに奇才テリー・ギリアムは、制作が終わるまで映画『ラ・ジュテ』を観ることは一切なかったそうだ(唯一、写真と文章だけで構成されたアートブックにはサーっと目を通したらしいが)。おそらく彼は彼なりに、原案に影響を受けすぎないように細心の注意を払っていたのだろう。静謐なモノクロームの『ラ・ジュテ』ワールドが、気がつくと”情熱の赤”に彩られた奇想天外なテイストへと変容していたのも、こういったギリアム流のオリジナリティやアプローチがもたらしたものだったに違いない。


*1、 「テリー・ギリアム/映像作家が自身を語る」イアン・クリスティ著、広木明子訳、フィルムアート社(1999/12)p.307


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