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不遇の名作『ラスト・ボーイスカウト』当時史上最高額の脚本に反映された、シェーン・ブラックの人生の悲しみ
2019.10.17
人生のどん底から自らを救うために書かれた脚本
シェーンは当時を振り返りこう語っている。
「『ラスト・ボーイスカウト』を執筆するまで約2年間、俺は手痛い失恋をして、人生を嘆き、タバコを吸ったり、ペーパーバックを読んだりする以外は何をする気も起きなかったよ。時間が経って、最終的には俺はデスクに座って、人生の苦味の一部をキャラクターに変換したんだ。この経験が『ラスト・ボーイスカウト』の私立探偵の物語の焦点になっているだ」(creative screenwriting 2014/12/1“I Like Violence” – Shane Blackより抜粋、翻訳は筆者)
シェーンが語るように、脚本は彼が失恋し、落ち込んでいる時期に執筆された。その状況がキャラクターたちに反映されているため、ジョーは妻に浮気され、娘には馬鹿にされる。相棒となるジミーはストリッパーの恋人を撃ち殺されてしまう。つまり彼らが「愛する女性を失う」という地点に放り出された所から映画はスタートする。
その後、ジョーはジミーの恋人を殺害した犯人を追って巨大な陰謀に巻き込まれていく。しかし一介の探偵ジョーが命の危険を冒してまで、なぜ事件を捜査するのかは明確に説明されない。でも理由は明らかだ。ジョーは事件を解決することで失った妻の愛と、娘の尊敬を再び手にすることができると信じているからに違いないのだ。それはこの脚本を執筆することで、人生のどん底から脱出できると信じた脚本家のシェーン・ブラックの思いそのものだ。
『ラスト・ボーイスカウト』(c)2013 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
「この脚本を書くのは非常にカタルシス的な経験だった。俺がこれまで経験した中で最高の経験の1つだったよ」シェーンは脚本を書くことによって救われたに違いない。そして彼には当時最高の175万ドルというギャラが支払われた。
ラスト、全ての事件を解決したジョーは、妻子の愛を取り戻し、ジミーに「自分の相棒になれ」と誘う。この映画はバディムービーでありながら、「バディ」の誕生そのものも描いている(『リーサルウェポン』も同じ構造だ)。
「俺にできるかな?」「教えてやるから大丈夫だ」
そう話しながら二人が歩いていくラストシーンは何気ないが、感動的だ。それは自己否定する生活を送ってきた人間が、自分を肯定し、拒否してきた他者と手を組む=バディとなる瞬間を描いているからかも知れない。
シェーン・ブラックは能天気と思われがちなバディムービーの中で、人間の救済を描くのだ。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『ラスト・ボーイスカウト』
DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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