迫り来る恐怖と並走する、もう一つのストーリーライン
とここで、『鳥』という映画を改めて見返すと、面白い構造に気づかされる。この映画は「鳥の襲撃」を描きながらも、しかしそこに並走し交錯する「もう一つのストーリーライン」を内包しているのだ。それは、ペット・ショップで出会った二人の愛の行方というプロット。その男性に惹かれ「ラブバード」という鳥を抱えて、彼が住む小さな町へと車を走らせる女性。近くの家には男の昔の女が暮らしており、さらに年老いた母親のジェラシーさえもがジワリと見て取れる。単なるパニック映画ではない、人間関係の波紋のような構造がそこには横たわっているのである。
この点では『サイン』も大いに共通している。というのも「宇宙人の襲来」と並行して、メル・ギブソン演じる主人公をめぐる「信仰の物語」がもう一つの主軸となって描かれているからだ。
この主人公は、過去に妻を亡くすという途方もない悲しみを経験したことで、信仰を捨て神の存在をも否定する男となった。そんな彼がもう一度、信仰を取り戻すまでが、この超常現象ストーリーと共に描かれていく。
『サイン』(c)Photofest / Getty Images
シャマランによると、本作のタイトル『サイン』にも二種類の意味合いが込められているという。一つは宇宙からの侵略を予期させる「前兆」であり、もう一つは神の「啓示」。ここで信仰などと書くと堅苦しく聞こえてしまうかもしれないが、要は何も信じることができなくなった男がもう一度、何かを信じようとする切実な物語なのだ。