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『戦争のはらわた』狂気と混沌の狭間で生まれた怪作。バイオレンスの巨匠が放つ戦争巨編には、撮影現場の過酷で生々しいリアルが詰まっていた!?

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『戦争のはらわた』狂気と混沌の狭間で生まれた怪作。バイオレンスの巨匠が放つ戦争巨編には、撮影現場の過酷で生々しいリアルが詰まっていた!?

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ユーゴでの撮影はトラブル続きの巨大なカオス



 本作は第二次大戦の東部戦線を舞台に、ナチスドイツ側の老兵、シュタイナー軍曹(ジェームズ・コバーン)の視点で、地獄のように広がる混沌を描いていく戦争巨編だ。冒頭の爆撃に次ぐ爆撃の場面からして息つく暇もなく、実に凄まじい。そこに小刻みな編集とペキンパーの代名詞でもあるスローモーションに乗せて粉塵が舞い上がり、兵士たちの身体が宙へ吹き飛ばされていく。今とは違ってCGなどでごまかしのきかないこの時代、フィルムに刻まれた爆破はどこまでもリアルで言い知れぬ恐怖を湛えている。


 とはいえ、この無尽蔵な火薬量は決して豊富な制作費を約束するものではない。実際は困窮を極め、資金難をめぐって暴動が起こる寸前。出口なしの絶望と人間性を忘れた狂気が渦巻く本作の撮影現場には、これまでのペキンパー作品を超えるレベルの混乱が広がっていた。さぞや「カメラが回っても地獄、止まっても地獄」状態だったことだろう。


 過去にもプロデューサーとの衝突は日常茶飯事だったペキンパーだが、今回もまた凄かった。「必要なものは何でも揃えてやる!」と豪語していたはずのプロデューサーは資金集めにつまずき、スタッフや俳優との信頼関係は奈落の底に。しかもユーゴスラビアの撮影現場に召集された面々は言語がバラバラで、意志伝達もままならない状態だったとか。


 20台という約束だった戦車も、届いたのは3台だけ。撮影初日なのに機材が未到着で皆が呆然と待ちぼうけを食らうこともあった。その上、スタントマンは5人しかおらず、彼らが死に際でアップになるとすぐさまメーキャップで別人へと仕立て上げ、幾度もローテーションを組んで終わりなき膨大なアクション場面を演じさせたという。さらに現地スタッフが用意した衣装は学芸会レベルで使い物にならず、エキストラ300人が着る何千何百という衣装を突貫作業で準備しなければならなかった。


 資金が底をつくたびに撮影は完全ストップ。ギャラの支払いを求めて「おいこら、どうなってんだ!?」と詰め寄るスタッフやキャスト。その上、ペキンパー自身もアルコールとドラッグで体を崩し、検査によって心臓が弱っていることが判明する。


 これだけ列挙してもまだ一例に過ぎない。とにかくひどい有様だった。が、言いたいのはそのひどさではなく、むしろそれを乗り越えて手にした「成果」だ。ペキンパーは、このプロデューサーと顔を合わす度に激しく衝突していたにもかかわらず、結果的に現場をなんとか収拾し、スタッフを結束させ、この絶望的な橋を最後まで死に物狂いで渡りきった。そしてこのカオスすらも飲み干したかのような怪作を作り上げた。もはや後に引けなかっただけかもしれないが、結果だけ見るとその執念と責任感には一師団を率いる軍曹にも似た凄みが見て取れる。



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