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『新感染 ファイナル・エクスプレス』“量”と“両”巧みな設定作りと演出の妙

(c)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM.

『新感染 ファイナル・エクスプレス』“量”と“両”巧みな設定作りと演出の妙

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密閉空間の濃密さをいかにリセットするか



 密閉空間は濃密さが増す一方で、飽きられてしまう可能性もはらんでいる。『スノーピアサー』では車両ごとに貧困層用住居、監獄、水族館、サロン、プールなど異なる世界として設定したためそれは回避できていた。しかし、『新感染』は一般的な高速鉄道だ。車両ごとに違いはない。そこで物語の転換ポイントとして、駅が使われている。ソウル駅を出発したKTXは、チョナン駅、テジョン駅、東テグ駅を通過し、プサン駅を目指す。密閉空間での行き詰まりは、各駅で起こる様々な出来事で大きく転換していく。その思いもよらぬ転換にはあっと驚くこと必至だ。


 最後に1点、本作にはゾンビ退治で不可欠ともいえる銃が登場しない。韓国では銃規制が厳しく、一般的には所持が禁止されているからだ。自然と、ゾンビとの戦いは肉弾戦、もしくは接近戦となる。車両という狭い空間での接近戦。完全に人間にとって不利な状況だ。さらにゾンビは密閉空間で爆発的に感染していくため、家族や友人もゾンビになっていく。ゾンビ化した家族や友人を、銃ではなく接近戦で殴り殺さなくてはならない悲しみは胸を抉る。なお、同じく銃の所持が禁止されている日本を舞台にした(多くのシーンは韓国で撮影されたが)『アイアムアヒーロー』では、主人公がクレー射撃を趣味とし、銃砲所持許可証および散弾銃を所持。これが主人公と他者との違いを明確にし、物語を牽引する力ともなった。


 ゾンビの“量”と鉄道の”両”という設定を存分に活かした『新感染』。ぜひヨン・サンホという才能あふれる“怪物”が生み落とされた瞬間に立ち会ってほしい。来日時、ジョージ・A・ロメロに対し、「ゾンビ映画の作り手は、全員ロメロに借りがある」と語ったヨン監督。彼もまたロメロのゾンビに感染したひとりなのだ。



文: 久美雪



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配給:ツイン 

(c)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. 


※2017年9月記事掲載時の情報です。

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