トリュフォーの助言がもたらしたもの
そして、ここでご紹介したいことがもう一つ。スピルバーグが『未知との遭遇』のためフランスから招聘したキャストでもあり、ヌーヴェルバーグを代表する映画作家フランソワ・トリュフォーの存在だ。なにやら彼が撮影現場で発した言葉の数々も本作が生まれるきっかけを与えたのだとか。この時、彼はことさら「コドモ」というワードを連発したようだ。
「私は君が“コドモ”と一緒にいる時が好きだ。君は“コドモ”と一緒にいる時が素晴らしい。“コドモ”の映画を作るといい」
「君は“コドモ”だ」(*3)
思えば、トリュフォーこそ自らの子供時代の記憶をベースに『大人は判ってくれない』(59)を始め様々な名作を生み出してきた人物である。そういった彼の言葉が大なり小なりスピルバーグに影響を与え、やがてこうして自伝的名作が生まれ出る一つのきっかけをもたらしたと考えると、非常に興味深い。
作品を紡いだ女性脚本家
最後に触れておきたいのが、女性脚本家メリッサ・マシスンの存在だ。すでに述べたように『E.T.』の物語は、チュニジアにて『レイダース』を撮影する傍ら芽吹いていった。この時、彼の聞き役となって、共に構想を膨らませていったのが、元「ピープル」誌の記者で女性脚本家のメリッサ・マシスンだ。それらをもとに彼女が本格的な執筆を進め、具体的な言葉や描写を与えて完成版の脚本へと導いたわけである。
実はマシスン、当時のハリソン・フォードの恋人であり、83年に二人は結婚(その後、04年に離婚)。さらに彼らは『E.T.』内で仲良くカメオ出演も果たしている(マシスンは小学校のスクールナース役、ハリソン・フォードは校長先生役で)。だが両シーンは完成版では残念ながらカット。伝説の未公開映像と化してしまった。
『E.T.』(C) 1982 & 2002 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
いうまでもなく、本作でマシスンの紡いだ言葉は素晴らしかった。子供にとって無理のないシンプルで判りやすい言葉を選びながらも、その隅々にまで深い感情が詰まっている。本作を観た人なら誰もが子供たちの演技に泣かされるものだが、これもまた彼らの感情をリアルに導いたセリフの力あってのこと。その上、物語の流れどおりに「順撮り」することで子役たちの感情が体験的に形成され、より素直に観客の胸へと届くことになったのである。
そのメリッサ・マシスンは2015年に65歳でこの世を去った。晩年、彼女が手がけた最期の脚本をスピルバーグが再び監督するという機会があった。それが『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(16)。残念ながら彼女の生前に完成させることはできなかったが、かつての伝説的なコラボレーションを彷彿させるような場面がこの映画には密かに散りばめられていたように思う。特に懐中電灯の描写は印象的だ。その光を目にした時、多くの人が『E.T.』の冒頭場面を思い出しハッとさせられるだろう。『BFG』はそんなマシスンに捧げられている。こちらもぜひ、チェックしてもらいたい作品だ。
<引用・参考文献>
*1「スティーブン・スピルバーグ 人生の果実」(アンドリュー・ユール/高橋千尋訳/プロデュース・センター出版局/1999)P.172
*2「アクターズ・スタジオ・インタビュー 名司会者が迫る映画人の素顔」(ジェイムズ・リプトン/酒井洋子訳/早川書房/2010)P.343
*3「はじめて書かれたスピルバーグの秘密」(フランク・サネッロ/中股真知子訳/学習研究社/1996)P.179
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『E.T.』
[4K ULTRA HD + Blu-rayセット]:5,990円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年4月の情報です。
(C) 1982 & 2002 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.