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『her/世界でひとつの彼女』恋人はAI(人工知能)!? 現代人の孤独に優しくタッチする近未来SFの傑作

『her/世界でひとつの彼女』恋人はAI(人工知能)!? 現代人の孤独に優しくタッチする近未来SFの傑作


「アイを語るAI」とのコミュニケーション・レッスン



 こうして、さまよえるセオドアの癒しとなるのは、なんとAI(人工知能)である。最新の人工知能OS……スマホの音声アプリである「サマンサ」が、彼の話し相手となる。彼女は抜群の聞き上手で、セオドアの悩みを受け入れ、的確なアドバイスを返す。


 このサマンサの声を担当しているのが、スカーレット・ヨハンソン。もし日本で同種のアプリを作るとなれば、ほぼ間違いなくアニメ声優的な萌え声が主力商品となる気がするが、サマンサは大人っぽく知的なセクシーヴォイス。恋愛カウンセラー的なお姉さんキャラで、メンタルの弱いセオドアに様々な気づきを与え、さらに新たな試練とその突破へと導いていく。




 未熟さを抱えたアッパーミドルクラスのインテリ男の憂鬱……これはウディ・アレン的な主題とも言えるだろう。『アニー・ホール』(77)や『マンハッタン』(79)の世界を、21世紀仕様にアップデートしたものと考えればわかりやすいかもしれない。かつてダイアン・キートンが演じた進歩的なヒロイン像は「アイを語るAI」に替わり、主人公のキャラクターは草食系で遥かにナイーヴになった。


 セオドアはサマンサという「教師」との親密なコミュニケーション・レッスンを通し、改めて生身の人間関係へと向かう。まるで大人版『ドラえもん』というか、藤子・F・不二雄先生の異色SFシリーズにもありそうな内容だが、スパイク・ジョーンズは本作でアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した。それまでは新時代のヴィジュアリスト――ポップで自由奔放な映像表現に評価が偏重していた感のある彼だが、この作品で超一流のストーリーテラーであることも証明した。




 デジタル環境の充実が、余計にコミュニケーションへの渇望を増幅させてしまう。これはまさに我々自身の問題だ。現代人の実存を誤魔化さずに描き、新しい形の愛やヒューマニティーの扉を真にこじ開けた映画作家は、いまのところスパイク・ジョーンズしか居ないかもしれない。


 

文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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『her/世界でひとつの彼女』

DVD ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

(c) 2019 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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