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『ワイルドライフ』心を「想い」で染め上げる、ポール・ダノの初監督作

『ワイルドライフ』心を「想い」で染め上げる、ポール・ダノの初監督作


名匠たちとの仕事で培った「画面全体での感情表現」



 本作の舞台は、1960年初頭のアメリカ・モンタナ州。引っ越してきたばかりの家族の平穏は、父ジェリー(ジェイク・ギレンホール)の不運な失業によって一変してしまう。ジェリーは妻ジャネット(キャリー・マリガン)の説得も聞かず、山火事を消火する出稼ぎ仕事にのめり込み、家から出て行く。家計を支えるため働き始めたジャネットは、心の隙間を埋めるためなのか、町の有力者と浮気を始める。家族がバラバラになっていく中で、14歳の息子ジョー(エド・オクセンボールド)は……。


 1960年は、『サイコ』『アパートの鍵貸します』『太陽がいっぱい』等が公開された年。だが、ジョーたちの暮らしは50年代が舞台の『ツリー・オブ・ライフ』(11)の雰囲気に近い。モンタナ州はロバート・レッドフォードのラブロマンス『モンタナの風に抱かれて』(98)に出てくる通り「ザ・山」の地帯で、山火事の頻発地域でもある(山火事の恐ろしさは17年の『オンリー・ザ・ブレイブ』に詳しい)。




 都会から離れ、WILDLIFE(野生動物)がすぐそばにいる環境。本作はジェリーとジョーがフットボールを楽しむ牧歌的なシーンから始まるが、山火事が発生する直前のようなひりついた空気感が冒頭から充満している。その後、引っ越してきたばかりでまだ「よそ者」の3人が、小さな不寛容に直面するシーンが続き、ジェリーの解雇によって平穏が壊されていく。この、悲劇性をにおわせる導入が実に巧みだ。


 ポール・トーマス・アンダーソンやドゥニ・ヴィルヌーヴたちの薫陶を受けてきたポールは、言葉で説明するのではなく、画面に「感情」や「予感」「予兆」を纏わせる手法を選んだ。その結果、静謐だが雄弁という絵画的なエレガンスが備わったのだ。


 ポール・ダノの監督としての非凡な才能は、「色」の使い方にも表れている。火の中に飛び込んでいくジェリーと、プールでコーチの仕事を始めるジャネット。この「火」と「水」の対比が、「赤」と「青」の色としてあらゆるシーンで登場する。




 ジェリーと離ればなれになったジャネットは以降のシーンで「赤」の服を身に着け、ジョーは「青」の服を着ている。ジャネットのジェリーへの愛情がここに表れていると捉えると、言葉では説明されないキャラクターの心情が見えてくる。


 彼女が赤色=夫への愛を着なくなるとき、何が起こるのか。青色=母への愛を纏っていたジョーの服装は、作品全体でどのように変化していくのか。これもまた、見事な「予兆」の示し方だ。




 構図の設計も理知的。前述の「色」に加えて、屋内と屋外、光と闇、壁と廊下など、様々な部分で対比や隔絶を表現しており、登場人物の「感覚」が観客の脳裏に自然とインプットされていく。



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