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『ワイルドライフ』心を「想い」で染め上げる、ポール・ダノの初監督作

(C)2018 WILDLIFE 2016,LLC.

『ワイルドライフ』心を「想い」で染め上げる、ポール・ダノの初監督作

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観る者の心までもブルーに染め上げる



 本作を鑑賞し、僕が感じたポール・ダノ監督の最大の武器は、演技の演出だ。


 クリント・イーストウッド、ベン・アフレック、ジョージ・クルーニー、ジョディ・フォスター、ケネス・ブラナー、ブラッドリー・クーパー等、映画監督としても成功を収めている俳優は多いが、彼らの強みは「役者の気持ちがわかる」という部分。動き方や演技の仕方等、俳優として出演者に明確に指標を示すことができ、さらにキャスティングの際にもマッチングがしやすくなる。


 本作から浮かび上がってくるポールの監督としての特性は、演技のトーンの統一感にある。俳優や背景を含めた、画面に映る全てをトータルで見たときの「色調」の補正能力とでもいうのか、キャスト・スタッフ陣の「感情の共有」感が図抜けているのだ。故に、画面から「哀しみ」や「虚しさ」といった感情が濁りなく伝わってきて、観る者の心までもブルーに染め上げていく。



『ワイルドライフ』(C)2018 WILDLIFE 2016,LLC.


 波長が合うキャストやスタッフを中心に呼んでいることもあるだろうが、これはなかなかに特異な能力だ。監督というより、画家に近い。筋よりも先に感情が、心に飛び込んでくる。


 登場人物の表情を静かに見つめたショットが多いのも印象的。ジョー役のエド・オクセンボールドが体現する「孤独と不安」、ジェリーを演じたジェイク・ギレンホールが漂わせる「諦念と脆弱性」が印象に残るが、中でもジャネットに扮したキャリー・マリガンの「精神的に老いていく」演技は強烈だ。ジェリーが出ていき、服装が派手になるのにつれて痛々しさが増していく母親。『ドライヴ』(11)『SHAME -シェイム-』(11)で見せたキャリーの「精神不安定」な演技の進化形といえるだろう。


 監督側からすれば、俳優を信じ切っているからこそ、こういったショットを選択できる。キャストたちが醸す「色」を揃えた上で、どっしり構えて演技の全てをカメラに収めるという心意気のせいか、哀愁たっぷりの物語ながら不思議な「抜け感」を感じられるはずだ。



『ワイルドライフ』(C)2018 WILDLIFE 2016,LLC.


 本作ではセリフも最小限に抑えられており、その代わり強度が非常に高い。旅立つジェリーがジョーにかける「小遣いをやりたいが金がない」、小金持ちに媚を売るようになったジャネットがふと漏らす「私たちにも独身時代があったのよ」「他の道があるなら教えて。やってみるから」等、心にぐさりと刺さるセリフばかりが並ぶ。ポール・ダノとゾーイ・カザンという2人の俳優が脚本を手掛けたことで、言葉ひとつひとつが演技を加速させる「着火剤」として効果を発揮している。


 しかし反対に、寡黙で人の顔色を窺いがちなジョーは、ほろほろと崩れていく2人の姿を見て両親も人間だったと知り、哀しみに囚われていく――。



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