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『ガタカ』運命は遺伝子を超える。切なさに満ちた傑作SF

(c)Photofest / Getty Images

『ガタカ』運命は遺伝子を超える。切なさに満ちた傑作SF

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「泣けるSF」の元祖的な存在



 『ガタカ』を手掛けたアンドリュー・ニコルはCM監督出身で、本作が長編監督デビュー作。主要キャストは本作をきっかけに結婚するイーサン・ホークとユマ・サーマン(現在は離婚)、ブレイク前のジュード・ロウ。イーサンとユマの娘マヤ・ホークは2019年7月4日に配信開始されたNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』のシーズン3や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)に出演しており、全米公開時から22年という時の流れを感じさせる。


 イーサン、ユマ、ジュードはこの映画を経てさらなる人気を獲得し、イーサンは『魂のゆくえ』(18)、ユマは『ハウス・ジャック・ビルト』(18)、ジュードは『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(18)『キャプテン・マーベル』(19)と、今や全員が話題作で活躍している。アンドリュー監督は本作の後に『トゥルーマン・ショー』(98)の脚本を書き上げ、15年にはイーサンと『ドローン・オブ・ウォー』で再タッグを組んだ。本作は、彼らの映画人生を飛躍させたターニング・ポイントでもあるのだ。


 同時に、『ガタカ』はSF映画に対するイメージを変えた作品でもある。たとえ産み落とされたのがどんな世界でも、夢を抱く。それが人間だ――。前述した同時期のSF映画との「差異」にも関連するが、ここまで真摯に人生を肯定してくれる希望のSF映画は、非常に珍しい。『インターステラー』(14)や『ロスト・エモーション』(15)、『メッセージ』(16)等の「泣けるSF」という人気ジャンルを生み出したのは、ひょっとしたら本作ではないだろうか。



『ガタカ』(c)Photofest / Getty Images


 SF映画の主たる構成要素だったアクションを排し、苦悩や葛藤に注力したストーリーはSF映画が苦手だった層にも届き、結果的にジャンルの枠を拡げる機運を生み出した。「DNA操作」というトレンドワードを扱っていた部分も少なからずあるだろうが、決定的だったのは、時代を経ても変わらない「人の心」を描いていたから。


 本作の筋は、単純化するとスポーツものに近い。努力で能力不足をカバーし、選抜チーム入りを目指す……まるで王道のジャンプ漫画のような展開ではないか。ただし、この映画の主人公ビンセント(イーサン・ホーク)が置かれた状況はもっと過酷だ。生まれたときから無価値と決めつけられ、認められるどころか最初から入り口が閉ざされていたのである。何度世界を呪っただろう。どれだけ絶望の時を過ごしたのだろう。そんな青年が世界に対し、人生をかけた反逆を試みるさまが、静かな語り口ながら熱い感動を呼び起こすのだ。



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