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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』タランティーノが万感の想いで描く、映画界の激変期“1969年”へのラブレター

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』タランティーノが万感の想いで描く、映画界の激変期“1969年”へのラブレター


時代の変わり目に立つ、TV俳優とスタントマン



 カンヌ映画祭でのお披露目を皮切りに絶賛の声が止まない本作は、当時のハリウッドに向けてタランティーノから送られたラブレターとも称される。


 ‘69年当時、彼は6歳の少年だった。その再現ぶりは見事というほかなく、きらびやかな街並みやむせ返るような空気感をはじめ、カーステレオから流れるラジオ放送やヒットナンバー、TV番組司会者のおきまりの名調子、またはお気に入りだった映画の記憶を紐解きながら、この時代を丁寧に隅々まで描写しようと努めているのが印象的だ。


 しかしクエンティン少年は、この頃の映画業界がいわゆる“過渡期”に突入していたことに気づいていただろうか。69年といえば、古き良き時代の終わり。スター・システムの崩壊、人々の価値観の変容も相まって、古いタイプの西部劇が激減し、アメリカン・ニューシネマの台頭が新たな潮流の到来を声高に告げていた。この年に公開された『明日に向って撃て!』、『イージーライダー』、『真夜中のカーボーイ』というラインナップを見ても、社会のニーズが決定的な変貌を遂げた様子が見て取れるだろう。




 そんな中、レオナルド・ディカプリオ演じるのは“リック・ダルトン”という俳優だ。50年代から60年代にかけて主演したTVシリーズで人気を博しながらも、そこから次の飛躍へとは繋がらず、このままではキャリアも下降線をたどることは明らか。なんとかしなければと焦りつつも、打開策はなかなか見つからない。が、結果はどうあれ、自分の持てる力を総動員して最上の演技を生み出そうともがく彼の姿は、時に滑稽でありながら、健気で涙ぐましく非常に胸打たれるものがある。


 タランティーノの発言を紐解くと(*1)、この時代には例えばクリント・イーストウッドやジェームズ・ガーナー、スティーヴ・マックイーン、バート・レイノルズなどTV業界から映画スターへと華麗な転身を遂げた者たちもいれば、ジョージ・マハリス、タブ・ハンター、ヴィンス・エドワーズ、タイ・ハーディン、ファビアン、エド・バーンズなど気流に乗り切れずに第一線からフェイドアウトしていった者たちも多数存在したとのこと。あらゆる映画を知り尽くすタランティーノは、おそらくこれらの人物から少しずつエッセンスを集めてこのリック・ダルトンという落ち目ながらも愛らしいキャラクターを構築したのだろう。


 また、もう一人の主人公がブラッド・ピット演じる“クリフ・ブース”。リック専属のスタントマンとして数々のアクションシーンをこなしてきた、いわば影なる存在だ。今では仕事が激減してリックの運転手に甘んじつつ、何かと自信を失いがちな彼の悩みや愚痴を受け止める大切な相談相手でもある。その意味で二人は深い絆で結ばれているのだ。




 こういった俳優とスタントマンの関係性は、バート・レイノルズとハル・ニーダム(彼は『トランザム7000』(77)などの映画監督としても名高い)、スティーヴ・マックイーンとバド・エキンズ(『大脱走』(63)にて鉄条網をバイクで飛び越える伝説的シーンで有名)など、伝説化して語り継がれているものも少なくない。


 その点、晩年のレイノルズと親交を温めたタランティーノだけに、彼本人から直接聞き出すことの出来た逸話もきっと多かったはず。出演が予定されていたレイノルズは惜しくも亡くなってしまったが、それでも彼の生きた証は本作のいたるところに刻まれていることだろう。


*1 Deadline



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