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『スパイ・ゲーム』わずかなヘリ撮影シーンに垣間見るトニー・スコットの意匠

(c)Photofest / Getty Images

『スパイ・ゲーム』わずかなヘリ撮影シーンに垣間見るトニー・スコットの意匠

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異なる演技アプローチをどう折り合わせるか?



 ここでもう一つ重要となるのが“演技アプローチ”の違いだ。レッドフォードとブラッド・ピットは、役作りの方法や本番への臨み方が全く異なるのである。


 まず、レッドフォードは入念に脚本を読み込み、さらに役柄について入念な研究を重ねるタイプ。そうやって演じるキャラクターを自分の中にしっかりと作り上げて、どんな事態にも対応できるようにしてから現場へと臨む。


 一方、ブラッド・ピットはどうか。もちろん彼も脚本を読み込んで研究を重ねる。だが撮影現場ではむしろ、自分の中に巻き起こる瞬発的な「ひらめき」を大切にするタイプだ。


 それゆえ、事前に大方の疑問を解決して現場に臨むレッドフォードとは違い、ブラピは演じながら悩んだり、ふと思いついたことを「こういったアイディアはどう?」と提案して撮影を止めてしまうことも多々あったという。



『スパイ・ゲーム』(c)Photofest / Getty Images


 制作進行の観点から言えば少しばかり迷惑ではあるものの、しかし主役の彼にしか見えてこないビジョンというものは確実にある。そしてスコット監督によると「ブラッドにはそのシーンを飛躍的に高める“何か”を、直感的に見つけ出す才能がある」とのこと。彼がのちにプロデューサーとしてプランBを率いることになるのも十分に納得出来る話である。


 スコット監督は当初、このアプローチの異なる二人が果たしてうまく噛み合うのかどうか心配だったそうだ。しかしさすが『リバー・ランズ・スルー・イット』で築かれた師弟関係は磐石なものだった。


 たとえ撮影中に考え方の違いが芽生えても、二人は相手を尊重しあいながらギャップを乗り越えていった。このあたりの関係性も、互いに過去のわだかまりを乗り越えていく『スパイ・ゲーム』の主人公たちのそれと、見事なまでに共鳴している。こうして彼らの演技上のケミストリーは、予想をはるかに超える高品質のレベルへと花開いて行ったのだ。



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