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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』原作を見事に映像化した、名匠アン・リーの手法とは

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』原作を見事に映像化した、名匠アン・リーの手法とは


アン・リーとデイヴィッド・マギーの参加



 そして2008年に入り、監督がアン・リー(*5)に決まった。リーは、脚本家のデイヴィッド・マギーと共にシナリオ化を進める。


 特に工夫されたのが、漂流開始以降のパイのセリフだ。基本的に彼だけの出演であるため、ヘタに脚本化すると、説明口調の独り言や、モノローグだらけになってしまう。そこでパイ(スラージ・シャルマ)がベンガルトラのリチャード・パーカーに話し掛けたり、日記を書く時の心の声、神への呼びかけなど、様々な方法で不自然さを無くす工夫がなされた。どうしようもない場合は、原作者をモデルとするライター(レイフ・スポール)を登場させて、彼と成人のパイ(イルファン・カーン)との会話で成り立たせた。


 またパイが、映画の終盤で「2つ目のストーリー」を語る場面は、当初のシナリオでは原作(*6)に近い残酷なものだった。だが最終シナリオでは、「コックがネズミを日干しにして食べた」というくだりを用い、「船員はネズミと同じ運命を辿った」と例えることで直接的表現を避けている。



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 この横暴なコック(ジェラール・ドパルデュー)と仏教徒の優しい船員(王柏傑)は、原作にはない貨物船内の生活の描写で具体的に登場させている。この場面では、ベジタリアンの母親(タブー)に対し、コックが肉料理しか出そうとせず、それに対し船員が肉汁なしグレービーをかけた米を進めることで、「2つ目のストーリー」への伏線を張っている。


 またリーは、1982年に76日間の漂流生活を経験したスティーヴン・キャラハンをコンサルタントとして招いた。キャラハンは、洋上で起きる現象を生々しく表現すると共に、サバイバルのノウハウをスタッフに伝授した。


*5 アン・リーと言えば、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞やアカデミー賞監督賞を受賞した『ブロークバック・マウンテン』(05)や、やはりヴェネチア国際映画祭金獅子賞の『ラスト、コーション』(07)など、文芸モノのイメージが強い。だが、筆者が『ハルク』(03)の取材でILMを訪問した際には、リー自らモーション・キャプチャーでハルクを演ずる様子を見せてくれ、彼が新技術に積極的な人物だと理解した思い出がある。


*6 他に原作では、漂流中に視力を失ったパイが洋上でフランス人の救命ボートと出会う、非常に不可思議なシーンがある。そのフランス人は、パイのボートに乗り移ろうとしてリチャード・パーカーに食べられてしまう。この場面は実際に撮影され、VFX作業も行われたが、編集段階で削除されてしまった。


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