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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』原作を見事に映像化した、名匠アン・リーの手法とは
2019.08.14
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』あらすじ
1960年代初めのインド ポンディシェリで生まれた少年パイ・パテルは、父が経営する動物園で動物たちと触れ合いながら育つ。ところが、パイが16歳になった年、人生が一転する。両親がカナダ モントリオールに移住することを決め、家族と動物たちは貨物船でカナダへ向かうのだが、太平洋のど真ん中で突然の嵐に見舞われ沈没してしまう。たった一人、救命ボートにしがみつき一命を取り留めたパイ。しかし、そのボートにはリチャード・パーカーと名付けられた凶暴なベンガルトラが身を潜めていたのだった……。小さなボートと僅かな非常食、そして一頭のトラ。果たしてトラは少年の命を奪うのか、それとも希望を与えるのか!? かくしてパイと一頭のトラとの227日にも及ぶ想像を絶する漂流生活が始まった。
インドのポンディシェリで動物園を営む一家がカナダに移住することになり、動物たちと一緒に日本の貨物船ツィムツーム号(*1)に乗り込むが、太平洋上で嵐に巻き込まれて沈没。たった一艘しかない救命ボートに乗り助かったのは、16歳の少年パイ(*2)とシマウマやブチハイエナ、オランウータン、そして「リチャード・パーカー」(*3)と名付けられたベンガルトラ(*4)だった。こうして過酷な漂流生活がスタートする…。
英国の文学賞であるブッカー賞を2002年度に受賞した、 ヤン・マーテルの小説「 パイの物語」を原作とした映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は、幻想的な美しい3D映像と感動的なストーリーが話題となり、第85回アカデミー賞で11部門にノミネートされ、監督賞を始めとして4部門で受賞した。
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
Index
映画化までの道のり
2003年に映画化権を得たフォックス2000ピクチャーズは、主人公パイがインド人であるという理由から、インド・ポンディチェリー出身のM・ナイト・シャマランを監督に指名した。だがシャマランは、『ヴィレッジ』(04)の後に『レディ・イン・ザ・ウォーター』(06)も決まっており、スケジュール調整ができないという理由で断っている。
その後もアルフォンソ・キュアロンや、ジャン=ピエール・ジュネと交渉に入る。特にジュネはこの企画に乗り気で、『アメリ』(01)や『ロング・エンゲージメント』(04)で組んだギョーム・ローランと共同でシナリオを執筆し、2006年からインドでクランクインする予定だった。しかしこのプロジェクトも中止に終わっている。
*1 この聞きなれない「ツィムツーム」(TSIMTSUM)という単語は、ユダヤ教の神秘主義思想であるカバラに登場する言葉である。このカバラについては、成人したパイが大学で教えているという設定も加えられている。ちなみに原作では「ツシマ丸」である。
*2 主人公の本名はピシン・モリトール・パテルなのだが、Piscine(フランス語でプールの意味)の発音がPissing(英語で小便の意味)と同じでからかわれるため、進学に当たって自ら円周率のπと同じパイだと名乗る。これは彼がある程度、水泳の訓練を受けていた情報を観客にもたらすと共に、動物が尿で縄張りを示すマーキング行動を暗示している。またπが無理数であることから、この物語が単純ではないと深読みさせる効果も持つ。
*3 この「リチャード・パーカー」という名前は、「ミニョネット号事件」という実話がベースになっている。その話は「1884年にイギリス船籍のヨット『ミニョネット号』が難破し、船長、船員2人、そして給仕である17歳の少年リチャード・パーカーが救命ボートで脱出する。彼らは捕まえたウミガメなどで食い繋ぐも、漂流20日目に虚脱状態に陥ったリチャード・パーカーを船長が殺害し、その遺体を3人の食料にした。彼らは24日目に救助され生還したが、母国に送還されると殺人罪で拘束された。英国高等法院はこれを緊急避難と認めることはできないとし、彼らに死刑を宣告する。しかし世論は、無罪を妥当とする意見が多数だったため、ヴィクトリア女王から特赦され禁固6ヶ月に減刑された」というものだった。
*4 この設定は、ジャガーと共に救命ボートで漂流するといった内容の、モシアル・スクライアーの小説「Max and the Cats」にインスパイアされたもので、原作者のヤン・マーテルは「命の輝きに関しては、モシアル・スクライアー氏によるところが大きい」と謝辞を述べている。ブラジル人のスクライアーは、現代ラテンアメリカの作家に多い「マジックリアリズム」に分類される作風が特徴で、邦訳された作品はまだない。