2019.08.10
新人だったブラッド・ピットが語ってくれたこと
実はこの映画に出演した直後のブラッド・ピットに、かつて電話取材したことがある(93年3月のこと)。その頃、日本では『
テルマ&ルイーズ』(91)しか公開されておらず、次作『
ジョニー・スエード』(91)のプロモーションに応じるという形でインタビューが実現した(わが家からアメリカのエージェントに電話してブラッドを呼び出してもらうというラフな取材。大スターとなった今では考えられないことだ)。
新人だったピットはとても気さくで、快活な話し方で取材に応じてくれた。監督や俳優の好みにはこだわりを持ち、その時は、ニール・ジョーダン監督と新作で組めることを喜んでいた(『 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94)への出演が決まったばかりだった)。『リバー・ランズ・スルー・イット』はアメリカではすでに公開されていたので、この映画について聞いたら、こんな答えも返してくれた。
「ロバート・レッドフォードのように特別な才能を持つ監督との仕事は本当にすばらしいね。この映画はある一家をめぐる物語で、その中の青年のひとりを僕は演じているが、彼はいつの間にか誤った人生に向かって歩み始めている。彼なりに努力するが、それでも何かが足りず、遂には破滅していく。とにかく、僕が1番よく理解できるタイプの人間だと思う」
『リバー・ランズ・スルー・イット』(c)Photofest / Getty Images
この役のためにオーディションを受けたが、最初の演技が気にいらず、別の場面も演じ直し、それが決め手となって、ポール役を得ることになったという(オーディションには、故リバー・フェニックスも参加していたようだ)。
そして、ロサンゼルスには練習用の大きな川がなく、ビルの屋上でポーズを特訓したという。フライ・フィッシングの場面については、「最初はむずかしくて、すごくイライラしたこともあった。練習するのも大変だったが、そのうち、楽しさが分かるようになってきた」と電話取材では語っていた。
後年、ポール役を振り返った時は、「本当はこの時の僕の演技は弱かったと思う」と辛口のコメントを残しているが、この映画では演技力を超え、とにかく存在そのものが、本当に光り輝いている(あのさわやかな笑顔に魅了されない人がいるだろうか?)。フライ・フィッシングの場面も圧巻で、その立ち姿の美しさがいつまでも記憶に刻み込まれる。俳優としてのレッドフォードは知的な顔と野生的な顔の両方を持っているが、この映画のマクレーン兄弟を見ていると、兄には知性、弟には野性味が託されている気がした(つまり、ふたりでレッドフォード?)
レッドフォードとピットは、その後、『 スパイ・ゲーム』(01)でも共演して仲のいいところを見せた。レッドフォードは監督業をこなしたり、サンダンス・インスティチュートを運営したり、と製作面でも勢力的な活動を見せたが、ブラッドも、自身のプロダクション、プランBを立ち上げ、『 それでも夜は明ける』(13)、『 ムーンライト』(16)ではアカデミー作品賞を受賞。監督の才能や企画を見抜く力は並々ならぬものがある。
『 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告
演技者としては新作『 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)で、仕事にあぶれたスタントマン役を好演。怖いもの知らずの野性味は、ヒッピーのコミューンを訪ねる場面や超絶アクションで生かされ、彼の魅力を再発見できるキャラクターとなっている(ふと下を向いた顔は中年期のレッドフォードそっくり!)。