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デヴィッド・フィンチャー監督『エイリアン3』人気SFシリーズがたどりついた極北とは

(c)Photofest / Getty Images

デヴィッド・フィンチャー監督『エイリアン3』人気SFシリーズがたどりついた極北とは

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デビュー作にして、鬼門に立ち向かったフィンチャー



 この後に監督の座に就いたのがデヴィッド・フィンチャーだ。今でこそ鬼才として認められている彼だが、長編映画の演出はこれが初めて。CMやミュージックビデオの分野で頭角を現わした彼は、レニー・ハーリンが監督を務めた20世紀フォックスの映画『フォード・フェアレーンの冒険』(90)の、ビリー・アイドルによる主題歌「Cradle of Love」のビデオクリップを手がけていた。


 ウォードが残したストーリーを叩き台にして、フィンチャーはフォックスの意向に従い、古くて錆びた金属的な建物を主体とした監獄惑星に舞台を変える。この星でリプリーが囚人たちとサバイバルを繰り広げるという展開も決まった。しかし公開までの時間は限られていた。かくして、脚本ができあがらないままセットを作り替える作業と同時進行で、新人監督が撮影に取り組むという異例の事態に発展する。


 フィンチャーに武器があったとすれば、それは怖いもの知らずの若さだろう。彼がシリーズの顔というべきシガーニー・ウィーバーに最初に提案したのは、髪をすべて剃ることだった。ウィーバーは、このアイデアを気に入り、囚人たちと同様のスキンヘッドとなり、これまでのリプリーのイメージを一新する。


 囚人たちの後頭部にタトゥーでバーコードを入れるというのもフィンチャーのアイデア。おかげで、舞台となる監獄惑星の異様な空気が増した。ちなみに追加撮影時は、ウィーバーの髪が伸びていたため、一分刈りのかつらが使用されることになった。


 また、フィンチャーは、エイリアンの生みの親H・R・ギーガーに新たなデザインを依頼。前作のエイリアンは一作目のデザインの使いまわしだったが、フィンチャーは”よりセクシーなもの”を求めていた。そんな監督の要望に応え、ギーガーは唇と顎を新たなエイリアンにあたえる。



『エイリアン3』(c)Photofest / Getty Images


 犬に寄生していたことから、このエイリアンには四足歩行の習性があり、しかも壁や天井をも走り抜ける。このショットもシリーズの新味。撮影監督のアレックス・トムソンはリハーサルの最中、スタッフがカメラを回転させているのを見て、これを通路のチェイスに取り入れた。かくして、エイリアン視点の迫力あふれる場面が生まれた。


 脚本がない状態で撮影が進められたため、セットはつねに混乱していた。フィンチャーとウィーバーの対立もあったという。しかし何よりの悲劇は、フィンチャーやスタッフの意図に反した編集をスタジオが行なったことだろう。これにより登場キャラがいきなりフェイドアウトするなど、物語に噛み合わない部分が生じたのは事実だ。


 それでも本作はシリーズ史上もっともダークなスリラーと言っても過言ではなく、前作の希望ある展開とは対極にあり、その強烈な暗さがむしろ面白い。現在は監督の意図に近い<完全版>もソフトで鑑賞することができる。エイリアン映画の極北に、改めて向き合ってみてはどうだろう。



文:相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。



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