(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』シンプルなタイムトラベルが気づかせてくれる、宝物のような日常の輝き
2019.08.13
監督引退の理由は、映画の中に込められている?
ところで、公開に先駆けて伝わってきた「カーティスが本作をもって長編監督を引退する」とのニュースに衝撃を受けた人も多かったことだろう。当時は「なぜ!?」という気持ちの方が強かったが、改めて冷静になってこの映画に触れると、本作そのものに「引退」の理由が丁寧に描かれていたことがわかってくる。
『 ノッティングヒルの恋人』(99)や『 ブリジット・ジョーンズの日記』(01)といった脚本作(こちらの執筆は今後も継続していくそうだ)でも名高いカーティスだが、さらに大きな責任の伴う“長編監督作”となると『アバウト・タイム』でようやく3本目。『 ラブ・アクチュアリー』や『 パイレーツ・ロック』はどれも無事大ヒットを記録したものの、これらを手がけるにあたっては彼自身が犠牲にしてきたものも大きかったという。
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』予告
一本の製作がスタートすると悠に3年間はそれ中心の生活が続く。となると「ありふれた普通の暮らし」を抱きしめるどころではなくなり、あれよあれよという間に家族との大切な時間が奪われてしまう。日に日に成長する子供を持つ彼にとって、それは絶対に避けたいことだったはず。本作で子供の成長を見守る父親役ビル・ナイと、その背中を追う主人公役のドーナル・グリーソンの姿を見れば、カーティスが理想とする生き方はもはや一目瞭然だ。
映画監督とは言うなれば「時間と空間を操る職業」である。奇しくも主人公はある場面で「気付いたら、タイムトラベルをすることもなくなっていた」、「今この瞬間が大事なのだと気付いた」と語るが、このセリフにこそリチャード・カーティスの率直な思いが全て凝縮されているのではないだろうか。
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
彼が「これまでで最もノーマルな人生、何気ない日常を描くことができた」と万感の思いをにじませる本作は、現時点における映画監督としての到達点であることは間違いない。
その一方で、彼はいつの日かまた舞い戻ってくる可能性を決して否定していない。カーティスがいつしか次のライフステージへと進むとき、持ち前の能力を使ってもう一度、時空を切り開こうとする瞬間が訪れるかも――――。10年後か、20年後か、この名匠が再び自らメガホンを取って語りかけてくる日を、我々は楽しみに、そして気長に、待ちたいものである。
文:
牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』
Blu-ray: 1,886 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
※2019 年8月の情報です。