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 『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』シンプルなタイムトラベルが気づかせてくれる、宝物のような日常の輝き

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』シンプルなタイムトラベルが気づかせてくれる、宝物のような日常の輝き

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シンプルなタイムトラベル描写がもたらすもの



 ここで注目したいのがカーティス流のタイムトラベル演出である。ここにはタイムマシンのようなたいそうな仕掛けなどいっさい登場しない。いざ「時間をさかのぼりたい!」と思ったなら、まず物置きなどの暗い場所にこもって目を閉じ、両手の拳をギュッと握って強く念じてみるのみ。たったそれだけで次の瞬間には目的地へ。映画史を紐解くと、『 ある日どこかで』(80)や『 恋はデジャ・ブ』(93)や『 ミッドナイト・イン・パリ』(11)などのローテクなタイムスリップを描いた作品がいくつも見受けられるが、本作はそれらと並んでも決して引けを取らぬほど、映像的にいっさい特別なことが起こらない。


 実を言うと、『アバウト・タイム』の製作チームは当初、このタイムトラベル場面にメリハリの効いたVFX映像を加える予定だった。実際にいくつもの特殊効果スタジオに仕事を依頼し、ある場面ではサイケデリックな演出を加えながら映像を逆回転させたり、はたまた静止した映像から主人公の身体が3Dっぽく浮かび上がるなどといった「日常/非日常」の境界線を明確に示す映像が次々と手元に上がってきていた。


 が、ここでいざシーンに当てはめてみたところ、意外なことが判明する。せっかく手間暇かけてこしらえたVFX映像が、逆にナチュラルな映像の流れを邪魔しているように思えたのだ。そこで今度は余計な演出を外して、もとの「物置に入って、ただ念じるのみ」のシンプルな映像に戻すと、こちらの方がよっぽどしっくりくる。これが最もあるべきカタチということは誰の目にも明らかだった。




 今思えば、この小さな“気づき”こそ『アバウト・タイム』の方向性を決定づける重要な転機だったのではないか。なぜなら本作は前述のように「特別ではない、ありふれた日常」を祝福する物語だから。タイムマシンもなければ、特殊効果もない。そんな世界で最もシンプルなタイムトラベル描写は、あらゆる装飾をそぎ落としたこの映画の細部やテーマ性とも軽やかに共鳴し合いながら、“ありふれた日常”を照らすやさしい光となりえていったのだ。



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