新しいバッドボーイズなスターの誕生
『バッドボーイズ』のバッドは悪い・出来が悪いというのが本来の意味だが、それを反転させたスラングでの「いい感じ」や「かっこいい」が本作での意味である。なので主演は、スラングが似合う20代のウィル・スミスとマーティン・ローレンスが相応しい。そんな若い2人には、マイケル・ベイがミュージックビデオやCMなどで培ってきた斬新な撮影方法にピッタリだった。
そして、主演2人のキャラクターの違いが最高だ。ウィル・スミスのハンサムで長身な部分は正統派王子様のようであり、ポルシェを乗り回すバッドな独身貴族を演じている。一方、マーティン・ローレンスはコメディアンであるので、コミカルで奥さんの尻にひかれた既婚者のファミリーマンを演じている。そんな2人のデコボコなコンビネーションが、映画では見事にはまった。マイケル・ベイは脚本に不満を抱えており、2人にはアドリブでノビノビと自由にやらせたことが、功を奏している。
誰もいない家に家宅捜査に入る時の「ブラウンシュガーを貸してください」という2人の掛け合いが息ぴったりで、そんな2人のコンビネーションがこの映画の肝でもあり、バディ映画の常識を変えたと言っても過言ではないであろう。黒人が主要キャストを務めるバディ映画では、通常、白人と組まされていた。黒人が主役ではマジョリティの白人客が呼べないであろうという、ハリウッドが考えた苦肉の策であった。
『バッドボーイズ』(c)Photofest / Getty Images
1950年代にスーパースターとなったシドニー・ポワチエも、『手錠のまゝの脱獄』(58)や『夜の大捜査線』(67)などで、その手段に甘んじている。しかし、その状況を打破したのも、やはりシドニー・ポワチエだった。南北戦争後に解放された奴隷たちの開拓を手伝う『ブラック・ライダー』(72)という西部劇では、人気を二分したスター、ハリー・ベラフォンテとW主演を務めている。その後には、コメディアンのビル・コズビーと共に『一発大逆転』(75)や『ピース・オブ・アクション』(77)を製作。さらに、日本では未公開となっている『Uptown Saturday Night』(74)を加えた、ポワチエとコズビーによるこれらの3部作は、『バッドボーイズ』の原型とも言えるだろう。
ハンサムで正統派のシドニー・ポワチエとウィル・スミスに、元々コメディアンの2枚目半のビル・コズビーとマーティン・ローレンスという具合である。ちなみに、ポワチエとコズビーの3部作は黒人観客にとってカルト作品であり、『Uptown Saturday Night』は幾度もリメイクの噂が立つ作品だ。今は、ウィル・スミスが製作者として『Uptown Saturday Night』のリメイク作品に関わる予定だが、数年前はデンゼル・ワシントンとウィル・スミス主演の噂にまでなった作品である。しかし、『バッドボーイズ』とは違い、黒人以外の観客には、あまり知られていない作品である。誰もが知る世界的な作品という点でも、『バッドボーイズ』はバディ映画の常識を変えたのだ。