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『ぼくのエリ 200歳の少女』愛と血は同じ色―静謐と残酷がせめぐ幻想恋愛譚  ※ネタバレ注意

(c)Photofest / Getty Images

『ぼくのエリ 200歳の少女』愛と血は同じ色―静謐と残酷がせめぐ幻想恋愛譚 ※ネタバレ注意

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愛を分断する“窓”、想いをつなぐ“血”



 最後に、『ぼくのエリ 200歳の少女』の切なさを一層盛り立てる2つの要素について考察したい。これまでの項で少し触れた「窓」と「血」だ。


 まずは、「窓」について。そもそも本作の原題は、『Låt den rätte komma in』。 英題は『Let the Right One In(正しき者を中に入れよ)』になる。これは、原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが敬愛するミュージシャン、モリッシーの楽曲 『Let the Right One Slip In』からの引用だ。リンドクヴィストは、こう語っている。「人に近づき血を吸うためには、ヴァンパイアはまず招かれなければならない」と。


 ここから推察されるのは、本作は「受容」の物語であること。「中に入れる」、つまり自分の私的な空間に入る“許し”を与える行為であり、オスカーとエリの関係においては「居場所」を作る意味も持つ。


 そのテーマを表現するために、本作では「窓」という装置を使っている。冒頭シーンの説明で触れたように、窓は「安全な家の中」と「危険な外の世界」を隔てるものでもあり、人と吸血鬼を分けるものでもあり、親子の運命を引き裂くものにもなる。劇中に登場するモールス信号は、2人だけのロマンティックな愛の交信手段ではあるが、分断された悲観的な状況をダイレクトに示すアイテムでもある。ただその分だけ、「窓を開ける」行為がエモーショナルに観る者の琴線を刺激するだろう。


 『ぼくのエリ 200歳の少女』では、彼らが置かれた状況を「窓」によって伝え、それが取り去られることで「進展」や「解放」を演出しているのだ。


 その最たるものが、エリがオスカーの家を訪ねてくるシーン。彼女は「『入っていい』と言って」とオスカーに頼み、彼がぞんざいに扱ったことで文字通り血の涙を流す。エリにとって「受け入れられる」ことが、どれだけ重要で切望しているものなのかが如実に伝わる場面だ。



『ぼくのエリ 200歳の少女』(c)Photofest / Getty Images


 ここで、「血」がもたらす効果について考えたい。本作の中で描かれる血は、その時々によって意味が異なり、またオスカーとエリにとっても違っているのだが、物語が進むにつれて両者が感じる「血」のイメージが近づいていく。


 序盤では、血はオスカーがいじめっ子に暴行されたときに出るもので、エリにとっては自分を縛るもの。いわば、逃れられないものの象徴だ。しかし、中盤ではオスカーが自分の手のひらをナイフで切り、「血の契り」をかわそうとする。これは、オスカーにとって血を流す行為が「親愛」へと変わっていることを示している。その前には、オスカーがいじめっ子に反撃をして流血させるシーンがあり、オスカーの中で血は「勇気」にも感じられているといえよう。自ら痛みの中に飛び込む=手を切ることでたくましくなった自分をエリに見せたい、という心理が見て取れる。


 しかしまだエリの中の「血」に対するイメージは変わっておらず、2人の関係には危機が訪れてしまう。その後、前述した「血の涙」の描写があり、さらに血まみれの状態でキスをするという象徴的な共通体験を経て、2人の中における「血」のイメージは完全に一致していく。


 この映画で最後に血が流れるとき、それはどんなシーンだろうか。我々がその光景を目にするとき、凄惨な画面と幸福な感情の強烈なコントラストが、体と心を貫くだろう。


 血だまりの上に立って、少年少女は笑う。他の人間はどうでもいい。エリは言った。「相手を殺してでも生き残りたい。それが生」なのだと。だから、そこにあるのは平和だ。彼と彼女にしか分からない、2人で勝ち得た真っ赤な愛の形なのだ。



文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」



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(c)Photofest / Getty Images


『ボーダー 二つの世界』公開記念 『ぼくのエリ 200歳の少女』限定上映

2019年10月4日(金)~10日(木) 連日レイトショー ※ブルーレイ上映

ヒューマントラストシネマ渋谷にて

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