原作者が生まれ故郷でこの史実を見つけるまで
映画本編では主人公となる3人の女性たちにスポットが当てられているが、そもそもアメリカ人の多くが知らなかったという彼らの物語が掘り起こされるきっかけは何だったのだろうか。そこで本稿ではあえて舞台裏で本作誕生に貢献した3人の<hidden Figures(隠れた人物たち)>に焦点を当ててみたい。まず注目すべきは他でもない、この史実を掘り起こした人物、原作者のマーゴット・リー・シェタリーだ。
彼女はヴァージニア州のハンプトン生まれ。本作の舞台となるNASAのラングレー研究所のお膝元で育ち、父親もまたここで研究員として働くアフリカ系アメリカ人だった。2010年、休暇中の彼女が久方ぶりの帰郷を果たすのだが、この時に再会した日曜学校の先生が、実はかつてNASAに勤務する数学者だった事実が、彼女の好奇心のスイッチを刺激する。父の証言によると「むかしは人種を問わず、ハンプトンに暮らす多くの女性たちがヒューマン・コンピューター(計算手)として勤務し、宇宙開発を支えていた」という。その事実を糸口に、マーゴット・リーはこれまで全く意識していなかった故郷の“思いがけない側面”の虜になっていく。もしかするとこの史実は、ハンプトンというコミュニティ内にてあまりに当たり前だったからこそ、これまで注目を集めることがなかったのかもしれない。それが改めて外から光を照射したことで、“語るべき物語”であることが改めて認識されたわけなのだ。
『ドリーム』(c)2016Twentieth Century Fox
彼女は日曜学校の先生を皮切りに、「計算手」だった数多くの女性たちへのインタビューを展開。その中にはもちろん、本作のメインとなるキャサリン・G・ジョンソンの存在もあった。その後、歴史の陰に“隠れた人物たち”を発掘し本にまとめる覚悟を決めた彼女は、この取材や研究のための助成金などを受け、NASAの所蔵する資料や公文書などにもアクセスしながら大規模なリサーチに着手するのである。