NASAに勤務経験のある女性脚本家を起用
ジグリオッティは映画化権を取得した後、これからどうすべきかを考えた。まずはこの専門性の高い内容を2時間の映画にふさわしいストーリーへまとめあげなければならない。それにはこの分野に造詣の深い才能が不可欠だ。そこで白羽の矢が立ったのが、特殊な経歴と家族構成を持つ女性脚本家、アリソン・シュローダーである。というのも、彼女の祖母はNASAにプログラマーとして勤務し、祖父はマーキュリー計画の技術者として参加、そしてアリソン自身も大学で数学を学び、NASAにインターンとして勤務した経歴の持ち主なのだ。
「“ヒューマン・コンピューター”のことは知っていたけれど、アフリカ系アメリカ人のチームがあったことは全く知らなかった」と語る彼女。だがその手腕はさすがといっていい。複雑な計算や数学の理論をセリフやト書きに散りばめながらも、決して観客に難解さを感じさせることがない。むしろ彼女自身も経験した「こんな史実があったなんて!」という知的興奮を持続させながら、NASAの組織の多様性、困難を超えていくヒロインのチームワークを描ききってみせる。それらの勢いがエンジンに火をつけ、やがて強力な噴射によって強烈なダイナミズムを伴う“物語”として昇華されていったのである。
このように本作『ドリーム』製作の過程には、原作者、製作者、それから脚本家といった3人の女性たちのバトンを繋ぐようなリレーが存在した。そこには何よりも本人たちが、史実から得た驚きと感動をそのままの熱量で伝えようとする思いが刻まれている。その熱量はキャストやスタッフたちにも幅広く浸透していったことだろう。
『ドリーム』(c)2016Twentieth Century Fox
時代はトランプ政権へ移り、目に見えて人種間の衝突のニュースが増え続けている。こうした社会の分断を意識せざるをえない状況への解決法が求められているタイミングで、まるで過去から現代へ向けたメッセージのごとく生を受けた本作。この感動と躍動は、ひとたび触れると必ず誰かに伝えたくなる。そうせずにいられなくなる。原作者、製作者、脚本家へとバトンが渡ったように、きっと私たちもこの思いを胸に、絶え間ないリレーを続けていくのだろう。その意味で、本作は人々をつなげ、感動を共有させてくれる。世界が分断に向けて滑り落ちているかのような今日に、まさにそのヴィジョンにおいて私たちを広く包み込んでくれる映画といえるのである。