ザック・エフロンに対するファンのイメージを利用
Q:『テッド・バンディ』がバイオレンス描写の変わりに掘り下げたのが、人が人を簡単に信じ込んでしまう「怖さ」です。実在のテッド自身、カリスマと呼べる存在ですが、どうしてここまで人を魅了できたのでしょう?
ジョー:そうだね……。今の我々からすると、あれだけ逃げおおせたこと、自分が無実だと主張して周りを信じ込ませたこと、チャーミングでユーモアがあって……つまりテッドの「個性」そのものが、何十年にもわたって人々を魅了し続けている要因じゃないかな。
Q:テッド役のザック・エフロンは、まさにその「個性」を体現していました。彼にはどんな指示を?
ジョー:騙すような気持ちで演じないこと。観客には「この人は無罪じゃないか?」と思ってほしくて、そのためにはテッドに共感してもらう必要があった。そこに作為的な要素が入ってしまうと、観る側は「演技してるんだな。騙してるんだな」と思ってしまうよね。
だからザックには、リズ(リリー・コリンズ)との愛が本当だと信じて演じてほしい、とお願いしたよ。2人の愛がスクリーンから染み出すくらいに燃え上がるほど、観客は共感しつつも「この人は連続殺人鬼なのか……?」と疑問に思い始める。
テッドが殺人犯であるという知識を一旦横に置いて、リズと同じ視点で見ることで「この人は犯罪者ではない」と思うようになり、真実が明かされるときに彼女と同じくらいの衝撃と嫌悪を感じてほしかった。テッドのことを信じているからこそ、強くショックを受ける。「愛」が重要だったんだ。
Q:そもそもザック・エフロンを起用した理由は?彼の従来のイメージとはかけ離れた役かと思いますが。
ジョー:『テッド・バンディ』を作るか悩んでいたときに、当時20歳と24歳だった娘たちに電話したんだ。2人はテッドのことを知らないと言った。友達にも聞いてもらったんだけど、みんな知らなかった。それを聞いて、この映画を作る理由と目的があると確信したんだ。若い世代に、この事件から学ぶべきことを伝えたいと思った。
よいルックスを持っているからといって、信用してはいけない――。これを伝えるには、何百万もの人から愛されているほど、ぴったりだよね。Instagramのフォロワーが4,000万人いて、世界中から愛されている彼は適任だよ。
僕はドキュメンタリー作家だから、リアリティを有効に使いたいと思ってる。この映画は、サイコパスに誘惑されるのがどういうことかを描いている作品だ。冤罪なんじゃないかと寄り添っていたのに、最後の最後で嫌悪感を覚える――。
本作では、ファンのザックに対するイメージを「使った」んだ。本人に会ったこともないのに、「彼は絶対に間違いなんか侵さない!」と盲目的に信じてしまう心理をね。
Q:では、相手役のリリー・コリンズにはどんなアドバイスを? 本作は彼女の視点で描かれており、最大のキーマンと言えます。
ジョー:まず、2人の愛は本物だったと思う、というシンプルな演出を前提としたうえで、彼女自身の人生の中で罪悪感を覚えた瞬間を掘り起こしてもらった。そして、その感情をリズが「彼は殺人鬼なのか?」と疑念を抱く部分で活用した。
あと、ザックやスタッフにはドキュメンタリーの方で集めた資料を共有したんだが、リリーに対しては「何も見ないで。脚本以上のことは調べないでくれ」って禁じたんだ。最初に彼女に資料を見せたのは、後半のある決定的なシーンの撮影前。おかげで、リアルで素晴らしいシーンが撮れたんじゃないかと思う。
今回リリーが演じたのはとてつもなく難しい役で、リズの恐怖心と混乱と罪悪感をセリフなしで表現したのはとても大変だったはず。でも、ほぼ全て「一発OK」だったんだ。すごいことだよね。