映像作家を目指したのは、全くの偶然
Q:『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)の題材になったマンソン・ファミリーの事件は1969年、『ゾディアック』(07)で描かれたゾディアック事件は1968年から1974年と、この時期のアメリカは血塗られています。テッドも「時代が生んだ怪物」に感じますが、なぜこの頃は異常犯罪が多発したのでしょう?
ジョー:いい質問だね。1960年代のアメリカでは様々な社会的な変革が興って、その中でも女性の性革命が大きかったんじゃないかな。それによって、仕事でもヒッチハイクでも何でも、女性が1人で何かをする、という機会が増えた。女性たちの地位が高まったことで、行動や発言の範囲がどんどん広まっていったんだ。
ただその一方で、精神的に不安定な男性たち――特に白人男性が、女性に怒りをぶつけてしまう機会が増えたんじゃないか。というのが僕の説だね。
Q:ありがとうございます。ここまでのインタビューを通して感じたのですが、バリンジャー監督は社会や人間に対する洞察力がすさまじい。ぜひ、そんなあなたが映像制作の道を志したきっかけを教えてください。
ジョー:ええと……実は最初から映像作家を目指してたわけじゃないんだ(苦笑)。
ちょっと変わったストーリーなんだけど、十代のときにホロコーストの映像に触れる機会があって、興味を抱いたんだ。自分の家族がユダヤ系だったことも大きい。僕の曽祖父が、ドイツからの移民でね。ホロコーストで亡くなった親戚はいないし、僕はドイツ人でもユダヤ人でもないが、あの当時ドイツに住んでいたら殺されていたんだと感じ、なぜこんな邪悪なことが起きてしまったのか知りたいと思い立ったんだ。
それで、言語学を専攻してドイツ語を流ちょうに話せるようになった。大学時代に僕が思い描いていた将来は、ドイツで仕事をして、現地の文化を知ることだったんだ。その後、ニューヨークの広告代理店のドイツ支社に勤めた。そこでアメリカン・エキスプレスのCMの撮影現場に入ったときに、フィルムとカメラとテレビを見て、「映像作家になりたい!」と思ったんだよね。
Q:へぇ! 運命的な出会いですね。
ジョー:あと、当時はフランクフルトに住んでいたんだけど、その当時に公開されたジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)を観てほれ込んでしまってね。僕もやりたいと思った。その後ニューヨークに戻って、映画業界を目指した。だから、全くの偶然なんだよね。これが僕の真実です(笑)。
Q:『テッド・バンディ』は海外ではNetflix配信され、大いに話題を呼びました。
ジョー:世界の80%がNetfix配信で、残り20%、日本やイギリスは劇場公開だね。Netflixとは視聴者数を口外してはいけない約束を結んでいるから正確な数値は言えないんだが、『テッド・バンディ』はオリジナル作品史上3番目に好成績を収めたんだ。
ちなみに、上位2つは両方とも100億円以上かけたビッグバジェットの作品だけど、本作は10億円以下で制作している。
Q:利益率で考えると、トップかもしれないですね。
ジョー:ドキュメンタリーの方(『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』)は28日間で5,800万人が見たってNetflixに教えてもらったんだけど、これもすごいよね。
ストリーミング革命によって、僕のような映像作家は今まで想像もできなかったほど多くの方に作品を届ける機会を与えてもらった。
Q:そんな中、日本では劇場公開。特別な思いはありますか?
ジョー:そうだね。Netfixで様々な方に観てもらえるのが嬉しい一方で、「みんなで一緒に観る」という映画館ならではの体験に恋い焦がれてもいた。僕自身、劇場で映画を観るのが好きだし、劇場の大きな空間で、大きなスクリーンでみんなで観る経験は何物にも代えがたい。
だから、日本のように劇場公開してくれるのは本当に嬉しいし、意義深い。配給してくれたファントム・フィルムには深く感謝しているよ。
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監督:ジョー・バリンジャー
20年以上にわたり、ノンフィクション映画やテレビの世界で中心的な役割を担う。複数のエミー賞を受賞したHBOの『パラダイス・ロスト』(原題)シリーズは、殺人事件の不当な有罪判決から“ウェスト・メンフィス3(有罪判決を受けた3人の呼び名)”を解放する世界的な動きを生み出した。結果、1人の死刑判決と2人の仮釈放なしの終身刑が取り消され、2019年8月19日に全員が刑務所から釈放された。3部作の最後の作品『パラダイス・ロスト3:パーガトリー(原題)』は、2012年にアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞とプライムタイム・エミー賞にノミネートされた。また、南米エクアドルで起きた米国企業による原油流出による大規模な環境汚染、それに対する訴訟を追った『クルード ~アマゾンの原油流出パニック~』などで、アメリカや海外の社会問題を取り上げ注目される。『Whitey:United States of America v.James J.Bulger』では70年代からボストンの裏社会を支配し、数々の犯罪に関わったジェームズ・J・バルジャーがFBIの組織犯罪対策班と手を組み、街であらゆる犯罪に手を染めていた事実を、その被害者の遺族などのインタビューを通して描いた。その他の作品に、ヘヴィ・メタル界の不滅の王者“メタリカ”の3年間を追ったドキュメンタリー『メタリカ:真実の瞬間』、トニー(アンソニー)・ロビンズの私生活、事業戦略家としての顔、そして毎年恒例の大規模な自己啓発セミナーの舞台裏に迫った『アンソニー・ロビンズ ―あなたが運命を変える―』(16・Netflixで配信)などがある。「殺人鬼のとの対談:テッド・バンディの場合」(19・Netflixで配信)では、死刑囚監房での録音テープや事件当時の記録映像、関係者と本人の独占インタビュー等を通して、その素顔に迫っている。
取材・文:SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『テッド・バンディ』
監督:ジョー・バリンジャー
原作:エリザベス・クレプファー『The Phantom Prince: My Life With Ted Bundy』
脚本:マイケル・ワーウィー
出演:ザック・エフロン リリー・コリンズ カヤ・スコデラーリオ/ジョン・マルコヴィッチ
原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile
提供:ファントム・フィルム ポニーキャニオン
配給:ファントム・フィルム R15+
12月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー
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