あらゆる映画を“資料”として共有
Q:ここからは作品の中身について、質問させてください。まずは、先ほどもお話に上がった映像面、特に色彩についてです。冒頭では黄色や暖色が使われていますが、妊娠発覚後は青や寒色の色合いが増えていきますよね。この辺りのイメージ共有は、絵コンテなどで行われたのでしょうか?
津田:そうですね。絵コンテも作りましたし、Pinterestを使って画像を集めて、スタッフに共有しました。あとはYouTubeもそうだし、写真も集めまくったし、既存の映画のショットをキャプチャして資料に貼り付けたり……自分で手描きして渡したものもあるんですが、どうしても絵だと照明の感じがなかなか伝わらないんですよね。
照明部の皆さんには、好きな映画を渡して「こういうトーンにしたいんだけど、どうしたらいい?」と相談しました。
Q:どんな映画を“資料”として共有したのか、気になります。
津田:やっぱりウォン・カーウァイ監督の作品とか、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(91)もあったんじゃないかな。
あとは『エターナル・サンシャイン』(04)でジム・キャリー演じる主人公が寝ていた部屋のブルーの色彩、フランソワ・オゾン監督の『17歳』(13)、小津安二郎監督の作品もシェアしましたね。
Q:古今東西の映画からインスピレーションを受けていたんですね。津田監督は本作で空間ディレクションも手掛けられた、と伺ったのですが、これは具体的にはどんな作業だったのでしょう?
津田:美術チームと相談しながら進めてはいくんですが、ふたりの住んでいる部屋はこの映画のキーなので、どこにカメラを置いてもきれいな画を撮ることのできる部屋にしたいと思い、かなり細かくアイデアを出しました。
たとえば壁紙を白じゃなくて色物にしようとか、ここに棚をつけようかとか、そういった部分ですね。産婦人科のシーンでも、ここに絵を飾ってみようかなど、色々とこだわって作っていきました。
Q:そういったビジュアル面の美意識は、ファッションイベント演出家としてのご自身の経験が大きいのでしょうか?
津田:やっぱり、自分が観たいものを作りたいんですよね。そこが一番のモチベーションだったのかもしれません。
カラーリングや質感に関しては、撮影時のモニターでも軽くエフェクトをかけていて、それを現場でみんなで観ていました。最終的なカラコレも、その当時に近い仕上がりに出来ましたね。