映画は、撮り上げた監督たちの“個性”が浮かび上がるものだ。デビュー作ならなおさらだろう。中でも、監督とは異なるキャリアの面々が、映画を作った際のカラーは興味深い。
舞台演出家サム・メンデスの『アメリカン・ビューティー』(99)、ファッション・デザイナーであるトム・フォードの『シングルマン』(09)、俳優ジョナ・ヒルの『mid90s ミッドナインティーズ』(18)……。ぱっと思いつく作品だけでも、作り手の経験が如実に反映されていることがわかる。
今回ご紹介する映画『Daughters』(9月18日公開)も、クリエイターの持ち味が十二分に発揮された一作だ。本作で長編映画監督デビューを飾ったのは、ファッションイベント演出家・映像作家の津田肇氏。ファッション&音楽イベント「GirlsAward」や、ナイキやMARY QUANTといったブランドのイベント演出を多数手掛けてきた人物だ。
そんな彼が作り上げた『Daughters』は、中目黒でルームシェアをする女性ふたりの10ヶ月にわたる生活を見つめた物語。5月のある日、彩乃(阿部純子)から妊娠の告白を受けた小春(三吉彩花)。シングルマザーになる道を選んだ彩乃に戸惑いながらも、小春は彼女を支え、共に生きていこうと決意を固めていく。
津田監督は脚本・監督に加えて、ロゴデザイン、ロケ地の空間ディレクション、WEBサイトやパンフレットのデザインのクリエイティブディレクターまで務めたという。予告編や場面写真からも、ビジュアルセンスが十二分に感じ取られるが、描いているテーマも非常に現代的であり、新たな日本映画の潮流を感じさせる。かと思えば、ウォン・カーウァイの影響を多大に受けたカットも見られ、実に趣深い。
愛すべき逸品を作り上げた津田監督に、話を聞いた。
Index
- ウォン・カーウァイにオマージュをささげたシーンも
- あらゆる映画を“資料”として共有
- 最初で最後の覚悟。やりたいことは全部詰め込んだ
- 妻や出演者の意見を取り入れ「いまの物語」に
- 様々な映画の要素を楽しんでほしい
ウォン・カーウァイにオマージュをささげたシーンも
Q:まず、本作の制作を目指された経緯を教えてください。
津田:僕自身が小さいときから映画が好きで、ずっと撮りたいなと思っていたんです。
『Daughters』の脚本自体は5年くらい前に書いて、どう映画化したものか……と4年ほど試行錯誤していたんですが、伊藤主税プロデューサーや出演者の皆さんなど、少しずつ賛同してくださる方が増えて、実現に動き出していけました。
Q:津田監督ご自身は、どういった映画がお好きなのでしょう?
津田:日本映画だと小津安二郎さんとか黒澤明さんの作品を結構観ていますが、自分の35年間を振り返ると圧倒的に洋画を観てきた時間の方が多いですね。
アジアだと、ウォン・カーウァイ、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェン……これらの方々からの影響は強いですね。
Q:『Daughters』の中にも、「ウォン・カーウァイだ!」と思えるシーンがありますね。
津田:それは言われますね(笑)。実際のところ、オマージュをささげたショットもいくつかあります。
Q:アジア以外、例えばアメリカやヨーロッパの作品ですと、どんなものがお好きですか?
津田:そうですね……。普段あまり、国を意識せずに観ているんですよ。イタリア映画も北欧映画も好きですし、どちらかというと監督で映画を観ているかもしれません。
アメリカ映画だと、好きな監督は、やっぱりスタンリー・キューブリック。最近はどちらかというと若い監督に注目しています。グレタ・ガーウィグとかデイミアン・チャゼル、グザヴィエ・ドランにアリ・アスター……。同世代の監督が、どんなものを発信しているのかに興味があります。