『音響ハウス Melody-Go-Round』相原裕美監督 シティポップを生んだ日本の名門スタジオ、そこには何があったのか?【Director's Interview Vol.93】
個々の音だけではなく、心と心が響き合うスタジオ
Q:音響ハウスでしか採れない音を言葉で表現するとしたら、どういうことになりますか?
相原:音響、でしょうね。音響ハウスというくらいだから(笑)。文字通り、音が響くということもありますが、心と心が響き合う場所、という意味もありますよね。それらをすべて表現する場所、ということになるんでしょう。
Q:スタジオ録音の一方で、今はデジタルでレコーディングできる宅録という手法もありますが、その違いについての言及もありましたね?
相原:宅録は結局、ひとりでレコーディングするということなんですよ。対して、スタジオで行なうレコーディングは複数の人間がセッションする、という意味を含んでいる。たとえばこの映画の中では、葉加瀬太郎さんがバイオリンを弾くときに、「弓、どっちがいい?」と意見を求めたりします。そういう意見交換を含めてのセッションなんですよ。複数の人間によって響き合うか? または、ひとりですべて完結するか? という違いだと思います。
Q:映画の中で“良い音とは?”と出演しているアーティストに質問を投げかけるシーンがありますが、その意図を教えてください。
相原:ある意味、不親切な質問ですよね(苦笑)。あまりにも漠然としていますから。いきなり問われても困るでしょうから、こちらも皆さんに前もって質問を振っておきました。あえて、こういう抽象的な質問をしたのは、そうすることによってアーティストの方々が見えやすいかなと考えてのことです。それぞれの方の人となりが見えてくるのは面白いですよね。
Q:相原さんにとって、良い音は何でしょうか?
相原:短い答ですが、”感動する音”です。
『音響ハウスMelody-Go-Round』では、ひとつの楽曲が出来上がるまでをつぶさにとらえているが、その過程をたどるのは、まさに感動的な映像体験だ。「人と人が音を響き合わせる、そんなセッションがスタジオ・レコーディングの醍醐味である」と相原監督は語る。コロナ禍により、人と人との”セッション”が困難になりつつある今、本作が奏でる音は、より大きく鳴り響いてくる。この“感動”を、ぜひ味わってほしい。
監督:相原裕美
1960年生まれ、神奈川県出身。 ビクタースタジオでレコーディングエンジニアを経験した後、1985年ビクター音楽産業(株)(現ビクターエンタテインメント)ビデオソフト制作室に異動、制作ディレクターとなる。オリジナルビデオ企画編成の傍ら、ミュージックビデオの黎明期と重なり、同社アーティストのミュージックビデオを演出・プロデュースとも数多く手掛ける。主なアーティストはサザンオールスターズ、ARB、Cocco、頭脳警察、マルコシアス・バンプ、永瀬正敏、斉藤和義等、多数。ミュージックビデオの仕事で当時新人だった岩井俊二や下山天ら映画監督を見出した。
2003年スペースシャワーミュージックアワードでプロデュースした「東京」桑田佳祐(演出:信藤三雄 脚本:リリー・フランキー)がVIDEO OF THE YEARを受賞。
2004年同社映像制作部設立に関与し、お笑いレーベル『コンテンツリーグ』の設立や映画に参入する。手掛けた主な作品は、熊切和嘉監督『青春★金属バッド』(06)、タナダユキ監督『赤い文化住宅の初子』(07)、三木聡監督『図鑑に載ってない虫』(07)等。 2009年同社退社後、2010年コネクツ合同会社を設立。主なプロデュース作品は松居大悟監督『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)熊切和嘉監督『光の音色-THE BACK HORN Film-』(14)等。2018年5月初監督作品『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』が公開。今作が監督2作目となる。
取材・文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『音響ハウス Melody-Go-Round』
(c)2019 株式会社 音響ハウス