海外の編集で感じた日本映画の弱点
Q:今回ポストプロダクション(編集)をドイツでやられたそうですが、それは何故ですか?
手塚:日本のポストプロダクションは技術的にもテクニック的にも弱いということと、今回はドイルさんが慣れている海外のスタジオがいいんじゃないかということもあって、それでドイツのスタジオを推薦されたんです。
Q:いかがでしたか?
手塚:すごくいいですね。技術力も高いし。何よりもポストプロダクションの重要性をすごくわかっているプロの人が揃っている。海外では当たり前なんですけど、日本映画はそこを今まで重視してこなかった。それでだいぶ損をしてきたんじゃないかと思うんです。
今海外の映画祭で、例えば黒沢清監督の作品なんかは大きな賞をとって注目されますけど、基本的に評価されるのは一部の監督だけなんです。ほとんどの日本映画は国内でヒットしていても海外で上映されない。その理由はやっぱりクオリティの低さ。お金のかけ方というよりクオリティ自体が低く見える。その理由はポストプロダクションに時間をかけていないことなんですね。そこはもう今回ちゃんとやろうと、最初から決めていました。
Q:手塚治虫先生の原作で次に映画化するとしたら何でしょうか?
手塚:次が何かは難しいですね。でもいくつか構想があって、進められるならすぐにでも進めたいと思っているんです。むしろ「ばるぼら」をやったことで、次回作がより身近になった気がします。
今までは手塚作品を映像化することにためらいがあったのですが…、それは「手塚治虫だから」というプレッシャーではないんですよ。スケール感とかいい俳優が揃うだろうかとか、そういう映画的な意味でのプレッシャーはあるんです。でもそれが『ばるぼら』を撮ることで、気にならなくなりましたね。
結局、お金の問題ではなくて、自分の狙いがはっきりしていれば、たとえどんな作品でもできるんじゃないかと。そういう意味では「火の鳥」もいいだろうし、王道で「ブラック・ジャック」をやってもいいのかもしれない。いくらでも選択肢がありますし、できることだったらすぐにでもやりたいなと思いますね。
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監督:手塚眞
1961年8月11日生まれ、東京都出身。ヴィジュアリスト/映画監督。高校時代から映画制作を始め、ぴあフィルムフェスティバルほか数々のコンクールで受賞。81年、8mm作品『MOMENT』で話題になる。85年『星くず兄弟の伝説』で商業映画監督デビュー。91年ドキュメンタリー『黒澤明・映画の秘密』を演出。99年映画『白痴』でヴェネチア国際映画祭招待・デジタルアワード受賞。テレビアニメ「ブラック・ジャック」で2006年東京アニメアワードのテレビ部門優秀作品賞受賞。映像作品以外では、95年富士通のPCソフト『TEO~もうひとつの地球』をプロデュース。19か国で50万本のヒットとなる。01年「東アジア競技大会大阪大会」開会式の総合演出。浦沢直樹のマンガ『PLUTO』の監修を行う。AIを使って手塚治虫の漫画を描いた「TEZUKA2020」プロジェクトではクリエイティブリーダーを務める。宝塚市立手塚治虫記念館名誉館長など、手塚治虫遺族としても活動している。著作に「父・手塚治虫の素顔」(新潮社)他。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『ばるぼら』
2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開!
配給:イオンエンターテイメント
© 2019『ばるぼら』製作委員会