『ガタカ』から考える未来の命　「Cinema未来館」SFは未来のシナリオか？【CINEMORE ACADEMY Vol.13】

ガタカは実はとても優しい世界だった？

Q：会場の皆さんに「ガタカの中で一番好きなキャラクターは誰か」というアンケートを取ろうと思います。ちなみに八代さんはどのキャラクターがお好きでしたか？

八代：ジェローム一択じゃないですか。登場シーンからして可愛すぎるでしょう。美少年過ぎる。ジュード・ロウが本当に素敵ですよね。

Q：そうですね、ジュード・ロウがブレイクしたキッカケの作品ですね。

八代：ジュード・ロウの美しく高慢な演技…笑

佐藤：先ほど楽屋で、ジェロームと（イーサン・ホーク演じる）ヴィンセントの関係が、1970年代の少女漫画的SFの世界観と関係していそうですね、という話をしていました。

Q：日本の少女漫画ですか？

佐藤：そうです、その頃と言えば萩尾望都さんですよね。あの銀メダルのくだり、聞いているヴィンセントは関心が無い、それでもジェロームは「銀なんだよ！」と。自分は金メダルを取るべき人間である、というわけです。それでも最後、憎むべき銀メダルを抱えて昇天するところが泣けますよね。

ちなみに僕が一番好きなキャラクターは検尿のお医者さんです。僕は今まで検尿がこんなに感動的なシーンになる映画を見たことがない。要所要所でずっと出てきているのですが、最初の検尿のシーンとの差が…。いつも面白いことばっかり言う人だと思っていたのに。

でもよく見ると、最後のシーン以外でもヴィンセントにちょっと息子の話を振っているんですよね、息子の話をしようとして、結局しないという。

Q：「検尿のおじさんが好き」というコメントが沢山来ていますね。この尿を採取していたレイマー医師の話でいうと、（ヴィンセントの正体に）いつ気づいていたのか？という疑問がありますね。

佐藤：レイマー医師はいつから正体を知っていたのだろうということについては、色んな説がありそうですよね。一週間前には知っていた可能性もなくはないし、殺人事件後に知った可能性もある。

あとは犯人のジョセフとの関係もありそうですよね。犯人が自白した時に、レイマー医師に対してヴィンセントを送り出してくれと託した可能性もある。なぜなら犯人はヴィンセントを守るために自白しているので。でも僕の説としては、元々知っていたのではないかと思います。

八代：ネタバレになってしまうのですが、ガタカのDVDに入っている未公開シーンを見ると色々と出てきます。そのシーンを見るとガタカというのはとても優しい世界だということが分かりますね。

佐藤：未公開シーンには、検尿のレイマー医師であったり、掃除のリーダーであったり、彼らのすごく良いエピソードが入っていますね。

八代：本編に入れてしまうと確かに冗長になりますし、全部入っていたら後半の印象が変わってしまっていたと思いますね。

佐藤：世界が優しすぎて単なるハートフルストーリーになってしまう。もう掃除おじさんすらヴィンセントのことを知っているという。

でも実は、ハックモノとしてはガタカはグズグズです。ハッキングと言うか、これでバレないなんてことはない。あとはレイマー医師でいうと利き手の話ですね、実は最初から分かっていたのでは。

ちなみに会場の皆さん、刑事が弟って最初から気づかれていましたか？僕は最初に観た時、世界狭いなって思いました。そんな偶然ありか！という。映画って、1回や2回はそういう偶然があっていいと思っているのですが、その偶然をここで使うのか、という印象です。

Q：脚本家の目線で見ると、そこじゃないのでは⁉︎と思われるということですか。

佐藤：あそこで使うとミステリーとしては破綻しますから。犯人を捕まえたくないと思っている刑事がずっといるという。全て分かってからもう一度見ると、弟がすごく遠ざけるような発言や捜査をしている。それでは捕まらないだろう、と。

Q：弟刑事が、肉親はいないと嘘をついていましたよね。これも守るためだった。遺伝子操作をしている弟と、していない兄の関係性についても気になるところでしたよね。

佐藤：そのあたりが少女漫画っぽいですよね。映画ではモノローグであんなに回想シーンを入れてはいけないと言われているのですが。ガタカは始まって20分間くらいは回想シーンでしたね。

八代：回想シーンを見ても、弟は明らかにお兄ちゃんが大好きでしたよね。

佐藤：そこの関係性とジェロームとの関係性、ヴィンセントはモテモテでしたね。最後の喧嘩はラブシーンではないかと思うような言い争いで、とても良かったですよね。

Q：分かってから見直すと、より弟の切なさが増してきますね。

遺伝子とルール