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『ガタカ』から考える未来の命 「Cinema未来館」SFは未来のシナリオか?【CINEMORE ACADEMY Vol.13】
科学とSF
Q:最後に会場の皆さんからのコメントをいくつか拾っていきましょう。「ポジティブに伸ばす改造よりも、ネガティブを潰す改造は受け入れられそう」というコメントがありますね。実際に科学の現場でもこういった方向で進められているのですか。
八代:例えば受精胚やミトコンドリアを使った核移植の研究というのが最近出来るようになったのですが、これは病気の原因を減らすためのものですね。この研究は以前はクローン人間に繋がるものだからやっちゃダメ、というルールだったのですが、先天性の病気の原因を明らかにするためであればやっていいとなりました。色々アップデートはされていきますが、やはりポジティブな方向に持っていくものよりは疾患を治療するといった方が一般的ですね。
ただ、ネガティブとは何かというのも価値の話ですよね。倫理の話でよく出てくるのですが、鬱などの治療に使う向精神薬を服用すると、モノによっては人をハイにします。内気な人が面接の前などにその薬を飲むことが許されるのか、という命題もあったりします。何がポジティブで何がネガティブなのか、そしてネガティブなものへの対応策でも、使いようによってはエンハンスになるかもしれない。またエンハンスが本当にダメなのかという考え方もある。
Q:非常に難しいですが本当に面白い問いですね。
八代:「臓器ストックのためにクローンを作るのは反対」というコメントがありますね。皆さんそう思っていますよね。ただ、臓器ストックを作るためだけにクローンを作るのはそもそも割に合わないですね。時間もお金もかかるし。
自分が40歳で、その細胞を移して受精卵を作って必要なサイズの臓器が出てくるまで何年かかるのかという。なので臓器ストックのためにクローンを作るというのはあまり現実的ではないかな、と思います。
昔はそういった考え方もあったのですが、現在ではオルガノイドという臓器の「芽」を試験管で作れないか、という研究が活発になってきています。
Q:最後にお二人から、コメントをいただければと思います。
佐藤:凄く面白いなと思うのは、僕みたいな畑の人間が最前線で研究されている方やルールを決めている方とお話をすると、刺激的なロジックをもらえることです。
大抵僕達はそういう人をマッドサイエンティストとして描きがちです。これは多分数学や科学を怖いと思っている、コンプレックスですね。瀬名秀明さんなど、科学を面白いと思っている人が書いた作品を読むことで刺激を受けますね。
八代:「SFが科学をリードしていますか」という話がありましたが、世界では未来予測の手法としてSFが使われていて、社会科学として研究されている方もいます。SFは、そういう未来のフレームやシナリオの作り方として重視されつつあります。
社会のことを考える場合において科学というのは一つの要素ですよね、すごく広いところの底を支えている要素。ただ、人の心の動きというのを捉え続けているのは、お話でありアニメであったりするので、こういった形で、ああでもないこうでもないとお話できるのは楽しかったです。
Q:サイエンス・フィクションで社会をポジティブに描いて、新しい科学技術と上手に付き合える未来を作っていければいいなと思いました。貴重なお話ありがとうございました。
10月24日(土)『レディ・プレイヤー1』(18)上映後に行われた「『レディ・プレイヤー1』と未来のアイデンティティ」の様子はこちらから!
取材・文:山下鎮寛
1990年生まれ。映画イベントに出没するメモ魔です。本業ではIT企業を経営しています。
日本科学未来館
未来を考える映画イベント「Cinema未来館」
SFは未来のシナリオか?
2020年10月24日(土)〜 25日(日)