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『ガタカ』から考える未来の命 「Cinema未来館」SFは未来のシナリオか?【CINEMORE ACADEMY Vol.13】
遺伝子とルール
Q:八代さんに聞きたいことがあるのですが、キスした後の唇や唾液、あとは髪の毛から本人を特定するというシーンがありましたが、あのような調査って実際に出来るのでしょうか。
八代:髪の毛であれば問題なく出来ます。犯罪捜査における遺留品捜査では唾液も使います。ガタカが撮られた1997年以前では未来の技術だったと思いますし、今ほどの精度は出ないと思いますが。
Q:髪の毛のどの部分から遺伝子を取るのですか?
八代:毛根でしょうね。
Q:映画の中では検査結果が出るのが、ものすごく早かったですね。
八代:あの早さは現在でも無理です。何をどれだけ読み取るかにもよりますが、特徴的なところを読み取るだけであれば1〜2時間で出来ると思います。
ヒトゲノムプロジェクトも、ガタカが撮影された時代では10年20年という時間と数十億円かけてやるようなものでしたが、今では、精度にもよりますが数日あれば全ゲノムシーケンスいけますね。
Q:ガタカの世界でゲノム解析や編集が出来ているという前提に立つと、関連する法律を作ったり、ビジネス化したりと色んなことが必要になります。そこでガタカの世界ではどのようなルールがあるのか考えていきたいと思います。
佐藤:あれはゲノム編集だったのか、それともセレクションだったのかよく分からなかったですね。現在でいうと、人工妊娠中絶という形で特定の疾患に関しては中絶が認められるということがありますが、そういった形で介入しておかなくてはいけない遺伝子配列というのがあるのでしょうかね。そういった話でいうと法律があるかもしれないですね。映画の中で、個人情報は守られるという設定がありましたし。
ただある程度はルールがあるけれども、ガタカという企業の中では調査なども全て行われているというように、なし崩しに広がってしまっているところはあるでしょうね。面接のところで「遺伝子差別は禁止されているけれども、法律というのは守ってくれないのだ」というようなシーンがありましたが、現在もあまり変わらないですね。企業内ルールと世間のルールは違うという。
ガタカ社の中でのルールは宇宙飛行士を作るためのものですから、そういう意味で正当化されているのではないでしょうか、莫大なお金をかけているので。
ただ監督のアンドリュー・ニコルが本当に宇宙に興味があるのかということは疑問ですね。ロケットの「ロ」の字も出てこないですし、宇宙飛行士の訓練も驚くほどチープというか。そこもまた1970年代の宇宙観で良いんですけどね。最後はスーツで宇宙に行きますからね。
先ほども楽屋で少し話したのですが、この映画はジャン=リュック・ゴダールの『アルファヴィル』(65)とか、最近の映画で言うと『エクス・マキナ』(15)のようなスタイリッシュな世界観を構築するためにSFというガジェットを使っていますよね。友人との関係とか弟のアントンとの関係のために、SFを使っていると思います。
実はヒトゲノム計画とライフサイエンスだけでこの映画は成立するように作られていて、宇宙がなくてもいいんです。
Q:「身長の記録を柱で行うのは海外でもやるのですね」というコメントがありますね。確かに。
佐藤:僕も思いました。柱で測るのって全世界共通なのでしょうか。10歳の線を弟が8歳で抜いているのが切なかったですよね。
八代:弟の線を消さずに自分の線だけを消す辺りが、弟のことが大好きですよね。あとは家を出る時に破った写真はどうしたのかが気になりますね、捨てたのか、持って出ていったのか。
佐藤:確かに。あとはその時代に紙の写真ってどうなのかというのはありましたね。スマートフォンが無いぞとかね。まぁそういった設定の穴もありますが、観終わった瞬間の感覚はもっとエモいですよね。
Q:「戻ることを考えずに僕は必死で泳いだ」というセリフもありましたが、あのセリフがヴィンセントの人生そのものですよね。彼は宇宙から帰ってきたらどうなるのでしょうか。
佐藤:普通に考えれば捕まるでしょうね。レイマー医師が守ってくれるかもしれないですが…経歴詐称で捕まってしまいそうですよね。
八代:やはり常識的に考えてしまうと、行く前と帰ってきた後もそうですが、行っている間も絶対に生化学的なデータをとるだろうと思ってしまいますね。冷蔵庫に入れた血液とかでやりきれるのかという。
佐藤:そういうことじゃない!そういうことを言ってしまうと映画がすごく切なくなってしまう(笑)。
八代:まあこれはネタですけども、僕は設定警察は嫌いな人なので、それはそれ、これはこれという姿勢で観ていますよ。