『ビッグ・フィッシュ』(03)イマジネーション豊かなプロポーズ
鬼才ティム・バートン監督の作品群の中でも異色のラブストーリーは、優しさと創造性の宝庫。中でも白眉といえるのが、主人公の父親と母親が夫婦になるシーンだ。
本作は「父が語って聞かせるほら話」という構造になっており、リアリティよりもファンタジックな表現に重きが置かれている。未来の妻となるサンドラ(アリソン・ローマン)と、サーカス会場で出会ったエドワード(ユアン・マクレガー)。出会った瞬間、「時が止まる」というロマンチックな演出も秀逸だが、その先に用意されているプロポーズシーンは、実に独自性が高い。
サンドラに婚約者がいると知ったエドワードだったが、どうしても彼女への想いを断ち切ることができない。飛行機で空にハートマークを描くなど猛アピールを続け、ある日彼は大勝負に出る。彼女の家の庭一面に、水仙を植えるのだ。窓を開けたとき、美しい黄色で埋め尽くされた光景にサンドラは歓喜するが、運悪く婚約者が殴り込んできてしまう。一触即発の状況の中、エドワードはサンドラの想いを汲み、婚約者に殴られ続けるのだった……。
しかし、結果的にサンドラの愛を勝ち取り、2人は水仙畑で見つめあう。この際、踏みつぶされてしまった水仙がハートマークになっており、2人を祝福するようなバートン監督の演出センスが光る。ちなみに、老夫婦となったエドワード(アルバート・フィニー)とサンドラ(ジェシカ・ラング)がバスタブで抱き合う場面も屈指の名シーン。ぜひ合わせて、お楽しみいただきたい。
また、本作には「父子の和解」を主のテーマとしており、エドワードの息子ウィル(ビリー・クラダップ)が、父のほら話に隠された“真実の想い”に触れ、受け入れていく姿が涙を誘う。上質なドラマを堪能できる逸品だ。
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