『ヤクザと家族 The Family』に詰め込んだ信念と美意識。そして、A24挑戦の夢――藤井道人監督が語る、過去・現在・未来【Director's Interview Vol.104】
日本映画界を牽引する若き実力派監督・藤井道人が、渾身の傑作を作り上げた。その名も、『ヤクザと家族 The Family』(1月29日公開)。『新聞記者』(19)を共に送り出した映画配給・制作会社スターサンズとの再タッグ作だ。
本作の舞台は、1999年、2005年、2019年の3つの時代。ヤクザの組長・柴咲(舘ひろし)に居場所を与えられた、天涯孤独な青年・山本(綾野剛)は、人生の中でヤクザの栄枯盛衰を経験していく。自らを受け入れてくれた“家族”が、社会や時代、法によって居場所を失っていく姿を目の当たりにした彼は、どう「生きて」ゆくのか――。
A24の魅力を語るトークイベントへの登壇、『WAVES/ウェイブス』(19)のトレイ・エドワード・シュルツ監督との対談、映画作りの“講師”として参加いただいたインタビュー連載「CINEMORE ACADEMY」など、CINEMOREではこれまでも藤井監督に注目してきた。
今回は、映画の製作背景をじっくりと伺いつつ、藤井監督の感性がどう培われてきたのか、本作を経て、今後はどこを目指すのか――。彼自身の過去、現在、未来の「3つの時代」に迫っていく。
Index
- 『新聞記者』直後から始まった、河村光庸氏とのセッション
- 「人間の心・感情を描く」が出発点
- ヤクザが題材だけど、「僕たちの話」でもある
- 「3世代の物語」が生まれた背景とは?
- 映像イメージへのこだわり。「誰でも楽しめる」を目指して
- 意味のないつらさが、まだ業界内にはいっぱいある
- いつかA24で映画を撮りたい
『新聞記者』直後から始まった、河村光庸氏とのセッション
Q:『ヤクザと家族 The Family』、すさまじい力作でした。
藤井:ありがとうございます!
Q:河村光庸さん(企画・製作・エグゼクティブプロデューサー)と打ち合わせていくなかで、どのようにして「ヤクザ」という題材に行きついたのでしょう?
藤井:2018年の12月に『新聞記者』を撮り終えたのですが、河村さんから翌年の1月2日に呼び出されて「次、どうする?」と言われました。まだ『新聞記者』の編集が終わっていない段階なのに(笑)。
その場で、河村さんから「こういう原作があって、これをやりたくて、でもこれもやりたい」という企画を何個も出されて、僕も負けじと「いや、自分もこういうのやりたいです」と提案して。こっちも出さないと、また『新聞記者2』みたいなものをやらされちゃうかもしれないから(笑)。
僕がこだわったのは、あくまでオリジナルがいいということ。ブレインストーミングをしている中で、「ヤクザ」というキーワードが自然と出てきたんですよね。コーヒーを飲みながらの雑談から、この映画はスタートしました。
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
Q:スターサンズのこれまでの作品を観ていると、ヤクザという「社会からあぶれたようでいて、実は密接に結びついている存在」にたどり着くのは非常にしっくりくるのですが、藤井監督は「ヤクザ」というものに対して、どんなイメージを抱いていたのでしょう?
藤井:僕は東京の中野で育ったのですが、新宿に近いこともあって、その存在を小さいときから感じていたんですよね。同時に、ヤクザの変遷も知らず知らず意識はしていました。半グレが東京にいっぱい出てきて、なんでだろうと思ったらその裏に暴対法(暴力団対策法)による組織の弱体化があって……。
そういったことに元から興味はあったので、2012年に制作した『けむりの街の、より善き未来は』でもヤクザを描きましたね。
より顕著に意識したのは、ジャン=ピエール・リモザン監督の『Young Yakuza(原題)』(08)を観たときです。熊谷組の組長を追ったドキュメンタリーなのですが、すごく衝撃を受けました。その中で熊谷組長が「俺たちは『夜の警備隊』と言われていた時代もあったが、お前はいまの自分たちを観てどう思う?」と若い子に問うシーンがあるんです。
それを観て、本質的に彼らを知ることはできないけれど、どこかカッコいいと感じてしまったのは事実です。