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アジア系俳優として初のオスカー主演賞ノミネート。『ミナリ』のスティーヴン・ユァンが語る、作品に誘われる喜び【Actor's Interview Vol.13】

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アジア系俳優として初のオスカー主演賞ノミネート。『ミナリ』のスティーヴン・ユァンが語る、作品に誘われる喜び【Actor's Interview Vol.13】

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今や、ハリウッドにおけるアジア系スターの「代表」になりつつある。それが、スティーヴン・ユァンだ。今年2021年のアカデミー賞で彼は見事に主演男優賞にノミネートされたが、主演部門でアジア系俳優が入るのは史上初。渡辺謙や菊地凛子も助演の部門であったし、昨年、アカデミー賞の主役となった『パラサイト 半地下の家族』(19)も、演技部門ではノミネートされなかった。まさにユァンは、歴史を変えたわけである。


スティーヴン・ユァンといえば、ポン・ジュノ監督の『Okja/オクジャ』(17)や、イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』(18)など韓国映画に出演し、後者ではロサンゼルス映画批評家協会賞や全米映画批評家協会賞で助演男優賞を受賞。活躍のベースはアメリカに置き、「ウォーキング・デッド」(10~16)のグレン・リー役など、アメリカの映画やドラマで活躍を続けている。


今回、ユァンのノミネート対象作となった『ミナリ』は、韓国からアメリカへ移民した家族の物語。自身もソウルで生まれ、4歳でカナダ、そしてアメリカへ移り住んだユァンにとっても親密なテーマだ。ユァンは、荒れた土地を開拓することでアメリカン・ドリームを叶えようとする、父親のジェイコブを演じている。『ミナリ』への思いや、現在の俳優としての立ち位置などを聞いた。


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アメリカと韓国、ふたつの文化でうまく生きてきた



Q:『ミナリ』のジェイコブ役は、どのような経緯で演じることになったのでしょう。


ユァン:たしか2018年の終わり頃、僕のエージェントがこの話を持ってきたんです。エージェントに「あなたのいとこが監督を務める作品ですよ」と言われ、「ちょっと待って、いとこって誰のこと?」と驚きました。


Q:リー・アイザック・チョン監督は、あなたのいとこなのですか?


ユァン:妻のいとこです。それまでアイザックと会ったのは、シカゴで行われた彼の1作目(『Munyurangabo』)のプレミアと、僕らの結婚式の2回だけ。別の親戚の結婚式でも会ったかな……。とにかく彼と映画の話はしたことがなくて、親戚の縁を頼ってではなく、エージェントから通常どおりオファーが来たのは、ちょっとクールだと感じました(笑)。


Q:出演はすぐに快諾したわけですね。


ユァン:自宅に戻って『ミナリ』の概要を読み、自分が伝えたいことがすべて詰まっていると感動しました。アメリカへの移民を描いた映画って、マジョリティの視点から彼らが受ける抑圧や苦しみが描かれていることが多い。でも『ミナリ』は、移民の家族の存在価値がシンプルに貫かれて、作り手の「自信」がみなぎっていたのです。家族がどんなものかを表現できるわけで、大胆で勇敢、新鮮な作品だと感じ、ぜひ参加したいと決めました。


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Q:あなた自身も4歳で韓国から移民したわけで、ジェイコブを演じるにあたり、両親を参考にしたのですか?


ユァン:人が新しい人生を求め、それまでの生活を投げうって、どこかへ移住する。僕はその感覚は完全にはわかりませんが、父はそういう人でした。父は自分の運命を、自分でコントロールしようとしたのです。そうした両親と一緒に生活し、彼らから学んだものも多いので、今回の演技に生かされているとは思います。


Q:『ミナリ』のジェイコブは、心臓に疾患をもつ息子を心配しつつ、妻に反対されながらも自分の夢を叶えようと必死になります。


ユァン:そこが彼の強引な一面ですよね。ジェイコブにとって家族への愛の表現は、力づくで義務を果たすことなんです。でも人生の体験は、家族みんなで一緒に分かち合うもの。何もかも一人で背負うことは不可能だし、家族関係もうまくいかなくなります。ジェイコブは、この物語を通して、謙虚な気持ちを学んでいくのです。


Q:そうやってジェイコブ役を掘り下げながら、自身のアイデンティティを再確認したのではないですか?


ユァン:うーん、そこはなんとも言えませんね。僕はこれまで演じた役に感情移入しながら、少しずつ自分のアイデンティティを掘り下げている感覚です。『ミナリ』では、欠点を含めてキャラクターを人間らしく表現しようと努めました。二面性や葛藤があるのが、人間。そういう気持ちで演じた結果、開放感を得た気がしますね。


Q:ただ、あなたはこれまで、アメリカと韓国の両方の文化で育ってきたわけで、こうした作品にシンパシーが感じられるのかと……。


ユァン:たしかに僕は、アメリカと韓国という2つのスペース(空間)で、うまく生きていく方法を学んできました。でもそれは、両方の空間それぞれから誤解を受けることにもつながります。だから自分はつねに、独自の空間にいるという孤立感は抱いてきましたね。その孤立感は自分の人生に不可欠であり、正直な気持ちの表れ。だからジェイコブの置かれる孤立感もすんなり共感できたのかもしれません。




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