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アジア系俳優として初のオスカー主演賞ノミネート。『ミナリ』のスティーヴン・ユァンが語る、作品に誘われる喜び【Actor's Interview Vol.13】
短い撮影期間と自由なムードの現場
Q:リー・アイザック・チョン監督の現場は、いかがでしたか?
ユァン:この『ミナリ』は撮影期間が25日と、かなりタイトでしたが、アイザックはつねに落ち着いていました。もちろん彼の場合、製作費が潤沢な大作を任されたら、それなりに対応するでしょう。今回は低予算の現場をフレキシブルにまとめていて、各シーンも2テイクか、多くて3テイク撮って、どんどん進めていく感じでした。監督が大胆に、自信をもって撮るので、みんなの集中力も上がった感じですね。
Q:俳優の演技にアドリブも多かったのですか?
ユァン:そうですね。アイザックは演技をガチガチに固めることはなく、俳優に対してオープンでした。たとえばジェイコブが妻と口論するシーンでは、セリフが終わった後もカメラが回り続け、僕は怒ったまま家の外に出ました。そのアクションは脚本には書かれておらず、僕のアドリブでしたが、いいシーンになりましたよ。
『ミナリ』©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
Q:なにげない日常のシーンが『ミナリ』では生き生きと撮られていますよね。
ユァン:ある日の撮影が終わった後、あまりに夕日が美しかったので、撮影監督がそれを撮るために現場を離れていきました。僕も何気なくついて行って、タバコを吸いながらブレイクしていたら、急に「撮らせてくれ」なんて言われて……。その映像も、しっかり完成作で使われてましたね。
Q:この『ミナリ』は、リー・アイザック・チョン監督の半自伝のような作品でもあります。それを俳優として再現するプレッシャーもあったのでは?
ユァン:いや、アイザックは懐が深い人で、俳優にリアリティを課すことはありませんでした。そもそも彼は、ジェイコブを自分の父として描くつもりはないと決めていたんです。だから脚本にも、演じるうえでの「余白」が十分に残されていました。さらに、この『ミナリ』は、韓国系アメリカ人の典型的なストーリーというわけではありません。もちろんアイザックも、僕も、親の世代を表現した部分はあるけれど、基本は普遍的に共感できるストーリー。そこを追求する現場という印象でした。