「過去に起きた大事件を描くシーズン2」
2006年が舞台だったシーズン1に対し、シーズン2では一気に時代を遡った1979年が舞台。ファーゴで最も有力なギャング・ファミリーを巡る抗争を主軸に、巻き込まれる若い夫婦、それらを追う警官などが中心となって描かれる。今度の警官枠は、シーズン1でも登場していたモリーの父親ルー・ソルヴァーソンであり、後にダイナーの店主となる前の現役時代に関わった大きな事件や、妻にしてモリーの母親であるベッツィが辿ることになった運命などが明らかになり、モリーのバックグラウンドが語られるという側面では、シーズン1との繋がりが強い。シーズン1でキース・キャラダインが演じた老ルーも渋くてよかったが、パトリック・ウィルソン扮する若きルーも文句なしのかっこよさで、なんとなく面影も意識されたような配役でしっくり来る。
シーズン2で強い個性を放つのが一般市民枠のふたり、キルスティン・ダンスト演じるペギーと、ジェシー・プレモンス演じるエドのブロムクイスト夫妻である。自分の思うように動こうとしなかった判事をダイナーで殺害して逃げようとしていたギャングのひとりを、ペギーが車で跳ねてしまったことで殺人事件のみならずギャングの抗争にも巻き込まれることになる。動転したペギーがフロントガラスに突っ込んだままのギャングをそのまま家に連れ去り、肉屋に勤めるエドが店の設備を使ったおぞましい方法で「証拠」を隠滅するのだが、平凡で満ち足りたように見えていた夫婦が、若干笑いを誘いながらも犯した罪を隠すために事態に深く踏み込んでいってしまう様はとても『ファーゴ』的だ。ダンストとプレモンスはこの共演を機に結ばれることになるが、それも納得な素晴らしいコンビだった。
ギャングの抗争が中心というだけあって、夫婦が犯してしまう殺人以外にもさらに多くの血が流れ、手を汚す人物も多く、一見今回はメインの悪人が誰なのかはわかりづらいかもしれない。家長である夫が病に倒れたことで、斜陽を迎えたファミリーを束ねるフロイド・ゲアハルトや彼女の息子たち、弱体化したゲアハルト一家のテリトリーを奪おうと企むカンザス・シティのギャングたちと、いろいろなワルが登場するわけだが、明らかにほかとは異質なミステリアスさを持ち、最後まで暗躍し続けるネイティブ・アメリカンの用心棒ハンジーこそ、特筆すべき存在だろう。ゲアハルトのためにカンザス・シティから送り込まれてくる敵兵を次々に殺め、行方不明となった一家の次男(ペギーが跳ねた)を探してあちこちを静かに探り回るが、多くを語らない上変化に乏しい表情からその真意は計り知れない。やがて事態は彼によって動かされることになる。
もうひとり、抗争の中で暗躍して最後まで生き残る人物がいる。カンザス・シティから送り込まれてきた刺客マイク・ミリガンもまた、表情が読みづらく静かな怖さを感じさせるキャラクターではあるが、ハンジーとは異なり明確な野心と目的を持って行動しているのは明らかで、ビジネス的な悪党と言える。本シリーズにおける悪人枠とは、もっと大きな意味で物語を動かし、目的や野望がはっきりとわからないような謎多き人物がふさわしい。物語の中で動いているのにも関わらず、物語の外にも身を置いているかのような印象、それが本シリーズの主要な悪人の条件ではないかと思う。
ストーリー展開は前シーズンよりも少し複雑になったかもしれないが、やはり「警察官・市民・悪人」の構図は変わらないので、視点を見失うようなことはないと思う。またシーズン2は過去の時代が舞台ということもあり、時代感の再現も凝っていて、服装やインテリアといった美術を見ていても楽しめる。特にルーが着ているミネソタ州警察のえんじ色の上着や、同じ色のパトカーが渋くてかっこいい。『ファーゴ』世界の過去編が描かれるというところも、おもしろいところだ。