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拡張する『ファーゴ』の世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.55】

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「シーズン1と『警察官・市民・悪人』の基本様式」



 ジョエルとイーサンのコーエン兄弟による同名映画を原型に、独自のストーリーを展開するTVシリーズ『FARGO/ファーゴ』。その最新シーズンが日本でもこの4月からスターチャンネルで本格的に放送予定である(スターチャンネルEXでは1月に配信済み)。映画版では行き違いや偶然の重なりによってケチな狂言誘拐が大ごとになっていく様が描かれたが、このドラマ版は、そんな不穏でドライなテイストと冬の中西部という舞台はそのままに、豊富なキャラクターたちによる全く別の新しい物語、事件が展開される。


 シーズンごとの完結でそれぞれ時代設定や人物の顔ぶれは異なる個別のストーリーとなるが、同じ地域一帯が舞台なので、時折シーズンをまたいで共通の人物や要素が登場することもあり、続けて観ていると一貫した世界観を楽しむこともできる。また一連の事件がシーズン丸ごとを使って展開される以上、映画版に比べて物語は入り組んで複雑になってしまいそうなのだが、シリーズを通して変わらない基本的な様式みたいなものがあるので、全体的にまとまりを感じられる。あれだけ大勢のキャラクターが登場し、移動や展開も多い中ですごいことだ。


 ではその様式とは一体なにか。それは元の映画版でフランシス・マクドーマンドが演じたキャラクターに相当する実直な警察官と、ウィリアム・H・メイシーが演じたような、平凡だが道を踏み外してしまう市民が、必ず物語の中心になる構図で、ドラマ版ではそこに、事件をかき乱して物語の歯車を狂わせていく、怪人的な悪人を加えているのが大きなポイントである。シーズンごとに騒動の性質は変わってくるが、基本的にはこの「警察官・市民・悪人」という大きな配置は変わらず、だからこそ人物たちの関係や動きがわかりやすく、そこからいかに変化がつけられてくるかがおもしろい。


 シーズン1では冴えない保険セールスマンのレスター・ナイガードが、殺し屋ローン・マルヴォと出会ったことで物語は動き出す。行きずりの会話を意図的に殺しの依頼と解釈したマルヴォは、レスターを学生時代からいじめてきた地元の人間を殺し、レスターのほうも日頃から彼をいびり続けてきた妻を衝動的に殺してしまう。レスターはその後始末のためにマルヴォを呼ぶが、マルヴォは不審を察してやってきた警察署長をも殺してしまい、事態は大きくなる。マルヴォの工作により、レスターは賊に妻を殺された悲運の男を装うことに成功するが、地元でただひとり、責任感と洞察力のある警察副署長モリー・ソルヴァーソンだけはレスターを疑うようになる。


 初回シーズンということもあってか、映画版の雰囲気を踏襲しており、特にマーティン・フリーマン扮するレスターは、赤いダウンコートに身を包み、目をおどおどと泳がせる様子などから、映画版でウィリアム・H・メイシーが演じたジェリー・ランディガードに通じるものがある。借金返済のために妻の狂言誘拐を計画し、裕福な妻の父親から大金を引き出そうとするジェリーの姑息さも、妻殺しの罪から逃れるため嘘を重ね、しまいには実の弟にさえ濡れ衣を着せて逃げおおせようとするレスターと重なる。なにより、彼らの身勝手さによって多くの人々が連鎖的に命を落とすところが言わば『ファーゴ』的なブラックさである。また映画版で雪の中に埋められたきりになった大金のその後の顛末も、シーズン1の中で描かれるなど、雰囲気だけでなく実際の世界観も、映画版と同一であることが示されたりもする。


 真面目な警官モリーも、フランシス・マクドーマンドが演じたマージ・ガンダーソンに負けないくらいかっこよく、柔和な雰囲気ながら鋭い視線でレスターを探るところなども見所である(ナイガードとランディガード、ソルヴァーソンとガンダーソンがそれぞれ似た名前なのも意図されたものだろう)。


 そして、ビリー・ボブ・ソーントン扮する殺し屋マルヴォこそ、映画版とは独立した魅力をドラマ版に与えた大きな要素だろう。とにかくその異様な佇まいが恐ろしく、殺し屋でありながらも損得関係なしにレスターとの会話から標的を選んだり、ほとんど意味もなくひとを陥れたり、至るところに混乱をもたらそうとする、行動原理が謎に包まれたまさに怪人と呼ぶべき人物だ。映画版でこのような役割に相当する人物は特に見当たらないのだが(明確な犯罪者として登場するスティーブ・ブシェミやピーター・ストーメア扮するチンピラたちでは全然釣り合わず、そういった小悪党の枠はドラマ版でもほかに登場している)、実はその違いに着目すると、マルヴォをはじめ後のシーズンに登場する「悪人」たちが、なにを表している要素なのかが少し見えてくる。



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