面白くなる可能性を閉ざさない
Q:今泉作品は、初期の短編も含めて、出ている役者さんが皆上手いですよね。皆さん自然体で、演技をしている感じもあまりしません。有名な役者さんはもちろん、まだそれほど名の知られていない役者さんも皆そんな雰囲気なのですが、いつもどういう基準で出演者を選んで、そこからどう演出・演技指導されているのでしょうか。
今泉:作品にもよりますね。最初『街の上で』は、誰かにオファーして出てもらうというよりも、俳優ワークショップ兼オーディションを実施して、そこから選んだ人のみに出てもらって映画を作ろうとしていました。その後、そこから出演者全員を選ぶわけではなく、何人かだけ出てもらうことになったのですが、それでもありがたいことに結構な人数の方に応募していただき、書類で50人選んで、25人ずつ2日間のワークショップを2回、計4日間やりました。セリフの無い役や小さな役も含めた10人ぐらいの方に、そのワークショップから出演してもらいました。
あと、自然体というと…、何ですかね。当て書きで脚本を作れる場合だと、その人が演じたら面白いと思う役を書けるので、自然な感じにはなりますよね。でもそうじゃないときには…、多分本人の能力を極力生かすことですかね。だから、名前があって活躍しているような上手な俳優さんとかでも、(本人の能力をより引き出すから)他の映画よりも魅力的に撮れる自信はあるんですよ。
©「街の上で」フィルムパートナーズ
映画の現場って、撮影前に段取りを確認する作業があって、芝居の内容や尺(時間)を確認して、その後に監督・カメラマン・助監督などを中心として、カット割りを決めて、テスト〜本番という流れになるのですが、最初の段取り時に、どう動いてくださいとか、どうやってくださいってことは、基本一切言わないことにしています。座る位置なんかも一度好きに座ってもらう。さすがに何か言わないとやりにくいようだったら言いますけど、でも基本は役者さんに好きにやってもらいます。もしそこで、俺が思っていたことと違う芝居をしたとしても、そっちの方が面白くなる可能性がある。役者さんの方がアイデアを持っていることも多くて。だから、俺から先にこうしてくれとは言わないようにしています。
俺の思っていたことと役者さんの動きが違うときは、その理由を聞きます。そうすると、役者さんの方がより脚本を理解していることもある。「あ、俺の方が間違ってたんだ」みたいな。
大事なのは、自分のオリジナル脚本だったとしても、自分が考えていたアイデアよりも面白くなる可能性を閉ざさないってことですかね。基本的に役者って皆さん優秀なので、それを信じてどれだけお任せすることが出来るかどうか。もちろん“委ねる”って、多少は怖い部分もあるんですが、でもやっぱりそれが、役者が一番生き生きする方法かなと。
ただ一方で、基本的にやってほしくない芝居っていうのも結構あるんです。例えば、安易に人に触らないとか。あとは、詰められたり、何か思い出したときや、とぼけるときなど、会話から逃げるときに視線を上に逃す芝居は基本禁止です。何かそれは芝居の型っぽく見えちゃって、今まである映画や演劇で散々やられてきた、「そう動くとそう見えるよね」っていう型だから、もうそれはやめたいんです。
芝居っぽく見えちゃう動きは基本全部外していきます。もし、どうしても視線でそういう感情を表現したい時には、ただ横にそらすか、ちょっと下に落としても同じようなニュアンスになるから、上げないで出来る方法をお願いしますね。
他には、普段の会話で使わないセリフは極力書かないとか。ちょっと決めゼリフっぽいものもあるのですが、そのときは、あまりドンとした寄りで撮らないとか、あえて強い画にならないように気をつけてますね。