若葉竜也と中田青渚だから成り立った17分のワンカット
Q:個人的にはテンポの良い映画も好きなのですが、今泉作品の長回しは観てても不思議と退屈しません。何かそのままずっと観ていたい感覚すらあります。それこそ冒頭に話した短編の『あさっぱら』とか最高でしたけどね。
今泉:あの作品はワンカット縛りの企画モノだったんですよ。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)で矢口史靖さんと鈴木卓爾さんがやっている「ワンピース」をさまざまな監督が撮るという企画に参加したものです。
Q:意外?な展開もあって、かなり面白かったです。
今泉:あの時期はほんとに仕事がなくて、バイトのことで奥さんと揉めた話をまんまアレンジしただけなんです。鼻ちょうちんも生活してて生まれたアイデアで(笑)。
Q:『街の上で』の予告にもちょっと入ってますけど、「恋バナ聞きますよ」ってシーンの長回しも、ずっと観ていられますよね。
今泉:あのシーンは長いです。普段はあんまり脚本を見ながら演出しないんですけど、あのシーンは長かったから脚本片手にやったのですが、「ページがまだあるぞ、まだあるぞ!」っていくらめくってもシーンが全然終わらないんですよ。自分で書いてるくせに何ページあるんだよ!みたいな(笑)。結局17ページくらいあって。
編集上では別のカットを挟んでますけど、もともとはワンカットで17~8分あるんです。しかも、テイクは一回のみ!
©「街の上で」フィルムパートナーズ
Q:あのシーンは男女の心理的なせめぎ合いもうっすら入っていて、結構難しいお芝居が要求されますよね。それを何の違和感もなくワンカットで演じ続けられる、若葉竜也さんと中田青渚さんはすごいなと。
今泉:あれこそまさに、自分の想像を超えてどんどん面白くなったシーンですね。アドリブはそんなに無くて、セリフはほぼ書いた通りに喋ってもらってるのですが、二人が本当に照れながら話してるように見えるんです。笑い声とかは、もうアドリブと呼んでいいのではないかってレベルで。
芝居って基本的には相手とやるものだから、相手がどれだけ受けてくれるかっていう安心感があると出しやすい。若葉さんって、相手の芝居がどうなっても、まるでスポンジのように受けれる人だから、中田さんは相当やりやすかったと思うし、委ねられたんだと思うんですよね。じゃないと、あの空気感は出ない。もちろん中田さんの力も相当なもので、肝が据わってるんです。あの2人じゃないとこのシーンは成り立ちませんでしたね。
この時の撮影は、スタッフにも相当助けられました。急にワンカットで撮ることになっても、撮影の岩永さんや録音の根本さんが、全然対応してくれるんです。本当はめちゃめちゃ大変だと思うんですよ。ワンカットでも人物は移動するし、それに合わせてちゃんとピントを送る必要もある。十何分もずっと撮影してて、突然の移動にピントが合ってなかったり音が録れてなかったらアウトですからね。相当な緊張感だと思います。
でも、もし何かミスったとしても、大したことでなければそのまま撮影を続けてくれるんですよ。お芝居がしっかり撮れてればそれで良し!と判断してくれるんです。その辺の優先順位をちゃんと分かっててくれるんで、もうこれは信頼関係ですね。
これは余談ですが、普段の録音部って、根本さんがブースで機材を操作して、録音助手が長いブームマイクを持つんですが、今回は撮影規模的に助手がいなくて、根本さんあのブームマイクを17分間持ちたくないから、どっかに引っ掛けたり、置けたりしないかなって、ずっとあれこれやってたのは覚えてますね(笑)。でも結局、諦めて17分間持ってた気がするけど(笑)。