役者に任せるキャラクター設定
Q:キャラクターについてはどうですか?どういう性格のどういう人間か、設定について脚本の段階で細かく作り込まれるのでしょうか。
今泉:これもいろんな方法があると思いますが、俺は全く作らないですね。セリフとちょっとしたト書きで役者さんがそのキャラクターを解釈するから、設定はその個人の解釈それぞれでいいかなと。
一方で、役者さんが自分のキャラクターを作るために、その役についての履歴書を書いたりして、すごく考え抜いて準備してくるやり方って、以前は結構苦手だったんです。それって下手すると現場で崩せなかったりして、固まっちゃう可能性があるなって思ってたんですよね。
でも以前、沖田修一監督と対談したときに「役者さんでガチガチに準備して固めてくる人とか、俺は苦手意識があるんですけど、どう思います?」って聞いたら、沖田さんに「そうやった方がいい人はそうすればいいし、あんまりバックボーンは考えずにフラットなまま現場でやる人はそれでいいし、本人がやりたい準備でいいと思う」って言われて。本当にそうだなって思って。要は現場でちゃんと反応したり、変化に対応できるんだったら、準備に関しては役者が安心する方法でいいと。
まぁでも、個人的には、役が抜けないみたいな感じの人よりは、フラットな人の方がいいかなぁ。
Q:以前、沖田監督にインタビューした際は、「特別なことは何もしない。役者さん皆さん達者ですから」とおっしゃってました。
今泉:同世代の監督の中だと、役者が一番ご一緒したい監督って沖田さんじゃないかと思うし、実際に役者からもそういう声は聞きますね。沖田さんって、現場にいるスタッフの中で一番笑ってるらしくて、監督の笑い声でNGになるみたいな話も聞きます。それは役者はやりやすいだろうなって思いますよ。
『街の上で』今泉力哉監督
Q:役者に任せてるとはいえ、完成した映画はちゃんと、沖田ワールド、今泉ワールドになっている。そこって何なんでしょうかね。
今泉:他の監督のことは分かんないですけど、俺は役者がやることを否定せずにいつつも、自分が思う方向には持っていっていると思いますね。あと演出に関しては”速さ”と“温度”の話はよくしてます。
Q:“温度”ですか?
今泉:恋愛モノだと分かりやすいのですが、「もうちょっと“好き”の温度を上げてもらっていいですか」ってお願いしたり。ただ、同じ”好き”という感情でも、役者がそれを体現する方法自体は色々あって、相手をもっと見る場合もあるし、好きだから見れない場合もある。そこはどちらでもいいんです。あえて具体的に指示せずに、役者にお任せするんです。好きな気持ちが見えれば方法は何でもいい。
あとは、カット尻を長くする。脚本のセリフを言い終わったとしても、すぐには「カット!」って言わない。だから役者はその後も芝居を続けなきゃいけないんです。そういう時間が生まれると、作り物と現実の境界がどんどん揺らいでいくんですよ。その辺は意識的にやっていますね。役者には常に新鮮でいてほしいし、言い換えるならば、不安でいてほしいんですよね。
Q:特に昔は多かったのかなと思いますが、役者を怒る監督もいますよね。でもその演出方法で傑作を生み出しています。その辺の違いって何なのでしょうか。
今泉:追い込むことで生まれるものも、もちろんあると思います。だけど、俺はやっぱりそっちは出来ないですね。でも、逆に、冷たい部分もあると思いますよ。役者を優先させてるけど、テイクはそんなに粘らないし、役者がまだやれるって思ってても全然OK出すので。
あと、沖田さんの話じゃないけど、俺は”現場で一番笑ってる人”とかじゃないんですよ。現場が白熱して「すごいものになった」みたいな瞬間も、一番冷静にいようとしてますね。現場の瞬間が凄かったとしても、それはあくまで“生”だったからであって、決してスクリーンで観てるわけじゃない。今この現場では面白いけど、スクリーンを通してみても面白いかどうかっていう視点は、常に持ってますね。