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『街の上で』今泉力哉監督 映画の完成形は頭の中に全くないんです【Director’s Interview Vol.116】

©「街の上で」フィルムパートナーズ

『街の上で』今泉力哉監督 映画の完成形は頭の中に全くないんです【Director’s Interview Vol.116】

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プロデューサーに裏に連れて行かれる事件



Q:自主映画のときはカメラも自分で担当していたのですか?


今泉:いや、自主映画のときからカメラは人に任せてました。結構早い段階から撮ってもらってましたね。


Q:なるほど。それも意外でした。


今泉:自分に画的な切り取りセンスがないっていうことが分かっていたのと、あとはカメラをやりだすともう芝居は見れませんからね。絶対“枠(フレーム)”、つまり画角しか見なくなっちゃうんですよ。今でこそ現場ではモニターを見てますが、最初はモニターなんて無い中で撮影してたんで、編集する時になって初めてどんな画か知る時もありました。


Q:現場で画角がわからないと、編集が不安じゃ無いですか?


今泉:でも、頭の中では編集してるんですよ。そういう意味では、役者にとっては残酷なところもあるかもしれないですね。例えば、役者さんが途中でセリフをとちったりしても、編集で繋がることを前提に、俺の判断でNGにしないこともあります。


それは、その時の役者さんのテンションやモチベーションを鑑みて判断してるのですが、「当然もう一回撮るよね」みたいな前提はないってことですね。これはベテランの役者さんとやる時の対峙の仕方でもあるのですが、その人が「絶対もう一回だ」みたいなスタンスでいたりすると、もう絶対撮らないって決めたりします。


Q:最近は、規模の大きな商業映画を手がけることも増えているかと思いますが、そういった現場では、今までのやり方が難しくなることもあるのでしょうか。


今泉:ありますね。やっぱり撮影体制が小さいときの方が、ギリギリまで迷ったりできると思います。実は『街の上で』も『あの頃。』もラストシーンって脚本には無いんですよ。現場で思い付いて撮ったものなんです。それをやらせてくれるスタッフで良かったなと。

 

©「街の上で」フィルムパートナーズ 


でも、ある現場のときは、同じように脚本に無いラストシーンを撮るかどうか迷ってて、それを差し込み(撮影期間中に追加される一部分のシーンの脚本)に書いて現場に持っていったら、プロデューサーに「ちょっと来てください」って裏に連れていかれました(笑)。その瞬間、脚本どおりのラストシーンを撮ることが確定しましたね。その翌日も懲りずに別シーンを差し込もうとしたら、その日は現場に来ないはずのプロデューサーが現場に来たので焦りました(笑)。まあ、別件で来てただけで、その日は差し込み分も撮らせてもらえましたが。あれは、めっちゃ怖かったな(笑)。


芝居を見ていく中で思いついたり、現場でより更新されてくことって絶対あると思うんですよ。そういう意味では、『街の上で』はラストシーンに限らず、他のシーンも撮影が始まってから生み出していったし、昔はよくそうしてましたね。


こっぴどい猫』は、撮影が8日間だったのですが、毎日差し込んでました。その日撮る分の脚本が毎朝配られるところから1日が始まるんです。例えばシーン1、7、13、47がその日の撮影予定シーンだとしたら、その4つのシーンだけの最新の脚本が配られる。もちろん全体の脚本はあるんですが、それより面白くならないかなあ、とギリギリまで考えて、毎日差し込んでいました。でも、もちろん新しい方が絶対じゃなくて。撮影3日目だったかな。差し込みを渡したら、「あれ? これより元のほうが面白くない?」って主演俳優に言われて。「じゃあ回収―」って(笑)。その日は元の脚本のまま撮りましたね(笑)。


Q:以前はお一人で脚本を書かれることが多かったかと思いますが、今回の『街の上で』は大橋裕之さんと一緒に書かれたり、最近は脚本に全くタッチしない作品すら出てきてますよね。その辺の変化はいかがですか。


今泉:自分で出来ないから撮影を任せるのと同じで、原作があるときは、もう自分一人では書かないですね。それはやっぱり違う能力が必要とされるんです。


原作を脚本にする場合は、どうしても縮める作業になると思うんです。漫画や小説をうまく2時間の映画にまとめる構成能力みたいなものは、俺にはあんまり無いなと…。過去に何度かチャレンジさせてもらったのですが、書き切れないで終わることが多かったんです。なので、まずは他の人に脚色してもらうのですが、ただ俺も、セリフとかはすごくこだわるので、一度他の人が書いてくれたものに対して、そこに俺が加筆することを許してくれる方と組むことが多いですね。


愛がなんだ』のときにご一緒した脚本家の澤井香織さんが、とっても相性のいい方でして、俺が今後撮る原作モノは、今ほぼすべて澤井さんが書いてくれています。




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