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『街の上で』今泉力哉監督 映画の完成形は頭の中に全くないんです【Director’s Interview Vol.116】

©「街の上で」フィルムパートナーズ

『街の上で』今泉力哉監督 映画の完成形は頭の中に全くないんです【Director’s Interview Vol.116】

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理屈で説明できない「編集」という作業



Q:尺やタイミング(特に長回し)など、編集の際も今までのやり方が通らないことはあるのでしょうか? 


今泉:あるある、全然ありますよ。


Q:なるほど、では映画全体の尺についてもですかね。


今泉:そっちもありますね。映画は興行があるから、2時間に収めたいのも理解できるんです。以前、2時間10分の映画を作った時に、作品の内容としては納得してたけど、興行的に広がらなかった経験もしましたし。あと単純に、俺は2時間超えるとトイレに行きたくなるという(笑)。膀胱問題を考えると、2時間はちょうどいいんだろうなと思いますね。ちなみに『街の上で』は自分で編集したこともあって、長くなって2時間10分です。


こういう時って、「重いテーマや歴史大作だと2時間超えてもいいけど、コメディや日常の恋愛モノだと2時間超えると長いよね。」みたいなことをよく言われるんです。でもそれは違うんじゃないかなと。要は“空気”のつくり方なので。逆にいうと、重い話だったら長い方が苦痛なんじゃないかなと、軽く見れるものだから長くてもいいじゃんってものもあるだろうし。


長回しについても色々意見はあるけど、俺は、映画の中に退屈な時間があってもいいってと思ってるんですよ。でもそれもあくまで映画館で観てもらう前提なんです。それを想定してるから、長回しで尺が長くても“間”は持つと思ってますけどね。大切なのは見終わった時の読後感というか。


愛がなんだ』のときも“間”についてのせめぎ合いがありました。俺やプロデューサー含めた5〜6人で、編集室で話しながら観てる時に、「今は編集室だから“間”が持たないと思うかもしれないけど、劇場でもっと大人数で同時に観たら、この“間”でも絶対持ちます!」って、かなり議論しましたね。でもプロデューサーの中には長さを気にする方もいて、「観客全員がシネフィルではないのだから、普段あまり映画を観ない人はこの“間”に耐えられないのではないか?」って言うんです。確かにそれも一理あるのですが、別に俺もシネフィルじゃないですし。


『愛がなんだ』予告


実際にそういうシーンが二箇所あって、一箇所は納得して切った(短くした)のですが、もう一箇所は全然納得いかなかったんで、「じゃあ、もっと切ったらいいんじゃないすか、どうぞどうぞ」って、「この尺じゃないんだったらもう意味ないんで、ガンガン短くしていいっすよ」「これでいいですか?でも、これでこのシーンが印象に残る人はもう1人もいなくなりましたからね。それでよければこれでどうぞ」って言いました(笑)。大人気なかったけど。でも結局、「あの切ったシーン、もう一回検証してみますか」みたいに後から電話が来ました(笑)。


今だにそのシーンに関しては、映画館で見ると、ほらね、ここ、少し短いでしょ?って思うんですよね。もっと“間”があってもよかったでしょって。ぶっちゃけると線香花火のシーンです。でも議論してて、「俺vs他全員」になった瞬間とかは、さすがに俺が間違ってんのかなとも思うし、そういった編集の間尺に関しては、もう生理現象に近いんで、理屈で説明できないんですよ。『街の上で』も、もっと尺を詰めた方が良いっていう人もいるだろうし。


編集って本当に難しいんです。テンポよく心地いいものって、さらっと流れちゃって残らないっていうのもあるから、何か「突っ掛かる」ことが必要だったりすると思うんです。神代辰巳さんだったかな、編集技師がめちゃくちゃきれいにつないだけど、神代監督が「これだと駄目です」って、その後ぐちゃぐちゃに編集し直してもらったみたいな話を読んだことがあって…。だから、やっぱり「突っ掛かる」みたいな意識は持ってなきゃいけない気もするんですよね。違和を作るというか。


この辺はもう理屈を超えちゃってるんです。「見やすい=唯一の正解」という考えがベースになってる人たちをどう説得するかはすごく難しいですね。


ちなみに『あの頃。』の時は、俺が提案した脚本とは違ったラストに対して、俺対プロデューサーじゃなくて、プロデューサー内でも意見が割れたんで、面白かったですけどね。もちろん今のがベストだと思っていますけど。




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