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『ノーカントリー』の3人のオールドメンと『ファーゴ』への繋がり【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.56】

『ノーカントリー』の3人のオールドメンと『ファーゴ』への繋がり【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.56】

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シガーもまた"Old Men"






 さて、殺し屋に市民と来れば最後は保安官である。『ファーゴ』シリーズでは勇敢な保安官が毎回登場し、自身の恐れと対峙しながらも一連の事件を追いかけ、正しさを追求する。『ノーカントリー』でもまさにそんな保安官が登場するが、トミー・リー・ジョーンズが演じたベル保安官は『ファーゴ』の保安官たちよりもずっと年配、引退間際の老人である。残念ながら彼が事件に直接関わることはほとんどできずに終わる。経験も豊富で観察力に長け、早い段階からルウェリンがどういう状況にあるのかを察知して彼を保護しようとするが、ことが起こった後の現場に駆けつけるのがやっとという具合。シガーの武器が屠殺に使われる銃と同様のものだろうと見抜くほどなのに、物語のスピードには追いつけていないのだ。


 事態によく通じながらも、直に関わることができないという完全な狂言回しに徹したベルだが、本作の原題「No Country for Old Men」の「Old Men」に最もストレートに繋がる彼は、シガーとは別の意味で物語を象徴するキャラクターである。冒頭から彼は「最近の犯罪は理解できない」と語り出すが、シガーの殺戮を目の当たりにして引退を決意したベルに対し、彼の叔父は「この地域一帯はいつも暴力的だった」と言葉をかける。果たしてシガーの殺戮は時代の産物なのか、それとも自分が年を取ったために事件の異常性に圧倒されてしまったのか。ベル自身は気づいていたことだろう。彼は自分が引退を決めた理由を確かめるために叔父を訪ねたのかもしれない。

 

 「Old Men」というからには、「老人」に当たるのは保安官だけではない。ルウェリンもまた帰還兵という半ば忘れられた存在であり、どれだけ危険な匂いがしようとも大金を持って逃げようという冒険心自体がもはや通用しないという現実にぶつかる。結果、彼はさながら逃げ惑うカウボーイと化してしまう。


 そして、シガーも例外ではない。彼は物語を動かす装置でもなければ主人公を惑わす悪魔でもなく、ましてや老保安官を圧倒する新時代の化身でもない。彼もまたタイトルロールのひとりで、退場する運命にある人物なのだ。顔色ひとつ変えず無駄のない動作で人々を殺めていくシガーだが、そんな彼に最後の最後で深傷を負わせたのは同業者でもなければ警察官でもなく、不意に起こった交通事故だったというのが、なんとも皮肉である。これによりシガーは腕から骨が外に突き出るほどの重症を負うが、『ファーゴ』のマルボもまた、最終的には素人の仕掛けたクマ用の罠によって、やはり脚の骨が突き出るほどの深傷を負う。


 確かにシガーはプロだが、殺し屋稼業にもいずれ終わりがやってくるだろう。通りすがりの少年から買ったシャツで応急処置をした彼は、事故現場からとぼとぼと歩いて立ち去るが、あれだけ凶悪だった人物なのに不思議と哀愁の漂うその後ろ姿には、やはり広い意味での老いのようなものを感じる。あのあとも彼は回復して、再び殺し屋とも殺人鬼ともつかない活動を再開したかもしれない。しかし、それも決して長くは続かなかったのではないだろうか。あの後ろ姿と、引退して朝食の席で妻に昨夜の夢の話をしているベルの顔が、重なるように思えてならない。


 舞台は1980年。しかし、ベルはもちろんのこと、ベトナム帰りのルウェリンも、そしてマッシュルームヘアのシガーも、それ以前の時代に閉じ込められたままのように見える。1979年が舞台の『ファーゴ』シーズン2では、到来する新時代を前にギャングたちが最後のあがきをするわけだが、『ノーカントリー』ではすでに80年代が幕を開けている。「Old Men」の面々は言ってみれば取り残されたのであり、現実との折り合いを強いられることになる。まさに原題が示すように、「老人に居場所なし」というわけだ。『ファーゴ』シリーズにおける三者の構図(前回記事参照)はそこにはなく、ただフラットに等しく3人が並んでいるのが好きなところでもある。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。

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