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『ノーカントリー』の3人のオールドメンと『ファーゴ』への繋がり【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.56】

『ノーカントリー』の3人のオールドメンと『ファーゴ』への繋がり【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.56】

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ドラマ版『ファーゴ』のもうひとつの原型



 前回はドラマ版『ファーゴ』(以下、特に断りのない限り単に『ファーゴ』と呼ぶ)について書いたが、あのシリーズは同名の映画版以外にもコーエン兄弟作品の影響が随所に見られ、中でも『ノーカントリー』と通じる部分は多いと思う。自分から首を突っ込んでいく巻き込まれ主人公、異様な殺し屋、事態を追いかける保安官と、前回の記事で語った三つのキャラクターがそのまま登場するなど、映画版『ファーゴ』そのものよりも似た構図となっており、ほとんど原型のひとつと言っていいかもしれない。こちらも好きな作品だ。


 1980年、ベトナム帰還兵ルウェリン・モスはテキサスの砂漠地帯で数台の車と散乱する死体を発見する。どうやら麻薬取引が決裂して撃ち合いになったようだ。ルウェリンはこの惨劇の原因たる大金を見つけてまんまと手中におさめるが、それにより金の回収を命じられた殺し屋に追われる身となってしまう。


 ハビエル・バルデムが演じる殺し屋アントン・シガーの強烈なヴィジュアルは本作のアイコンでもあるが、その不吉な佇まいは『ファーゴ』シーズン1でビリー・ボブ・ソーントンが演じた殺し屋ローン・マルボに近いものがある。マルボはシガーに比べれば饒舌で、するりと人々の中に紛れ込む術を身につけてはいるが、内に秘めた危険さや異常性はひけをとらないだろう。特にマルボがモーテルの受付に不可解な質問を浴びせて気味悪がられるシーンは、シガーが同じようにガソリンスタンドの主人を混乱させる場面を思い起こさせる(シガーももちろんモーテルで不気味な態度を取って警戒される)。


 シガーの主な凶器であるボルト・ピストルもまた特徴的だ。酸素ボンベから伸びたチューブの先についたシリンダーを、犠牲者の頭に当ててボルトを打ち込んでしまうのだが、これは家畜の屠殺で牛などを気絶させる際に使うピストルと同じ作りのものと思われ、打ち込まれたボルトは一瞬でシリンダーへと戻っていく。そのため残された死体は銃で撃たれたように見えるものの、当然弾丸が残らないという寸法である。またシガーはこれを使ってドアの錠をさほど大きな音も立てずに吹き飛ばしてしまうので、追われる身には恐ろしい武器だ。


 組織からの依頼で消えた大金の行方を追うシガーだが、 その遂行と直接関係のない人間でも成り行き次第で手にかけてしまうところに、制御不能の危険さが表れている(逃走のためとは言え保安官でさえも躊躇いなく殺してしまうのだ)。たとえ危害を加えなくとも、前述のガソリンスタンドやモーテルでのように、不吉な言動で相手を恐怖させる。本来ならできるだけ誰の記憶にも残らないように行動すべきだろうに、「怪しいやつが来た」という印象を相手に植え付けるかのような行動がまたおっかない。マルボ同様、シガーもまた単に利害で人を殺めるタイプの悪党ではないのだが、では、やはり彼もマルボのように物語を無意味にかき回そうとする装置なのだろうか?



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