役者の感性を否定しない
Q:哲学的なテーマを孕んだ作品ですが、作品の内容や解釈について、芳根さんはじめ出演者の皆さんに対して、石川監督はどのように説明されたのでしょうか?
石川:何かいろいろと話した記憶はあるのですが、「これはSFではないです」とよく言っていたと思います。遠い未来の話ではなく、今の自分たちと地続きの話なので、役作りをするときは、あくまで今の自分から広げていってくださいとお願いしました。
美術や衣裳、ヘアメイクなどのスタッフにも、同じようなお願いをしていて、今の世界に無いものを作り出すのではなく、自分たちの周囲にあるアイテムを使って、どうすれば未来っぽく見えるのか、それにトライしてもらいました。
© 2021映画『Arc』製作委員会
Q:確かに未来の風景も、説得力のある世界観に仕上がっていたと思います。これは芳根さんにお伺いしたいのですが、まさに今お話に出たように、石川監督の作品はその完成度の高さが非常に特徴的ですが、現場での演出にもその片鱗が見えたりするのでしょうか?
芳根:石川さんの演出はすごく丁寧ですね。リハーサルにすごく時間を取ってくれるから、現場で発見することがたくさんあるんです。脚本を読んだだけでは気づかなかった部分に、現場で気づくこともある。
あとは、役者が作ってきた土台を大切にしてくれる印象があります。監督の意図を押し通すのではなく、役者それぞれが持ってきた意見をうまく取り入れて配合してくれる。みんなが持ち寄った材料で美味しい料理を作ってくれるような感覚ですね。役者の感性を否定せず大切にしてくれるので、すごくうれしい気持ちでお芝居ができます。
Q:なるほど。それは意外でした。作品の完成度の高さから、石川監督はかなり細かくて完璧主義者なのではと、勝手に想像してしまっていました。
芳根:確かにすごく細かいとは思うのですが、ベースになる部分は任せてもらえる感覚があります。例えて言うなら、石川さんから「この粘土で何か作ってください」と言われて、「分かりました〜出来ました」って見せると、「ああ、なるほど、なるほど」と言われながら、最終的に一緒に細部を作っていく。そんな感覚なんですけど、分かりますかね(笑)?
石川:確かにその通りですね。本当にそういう感覚でやっています。