1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】
「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】

「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】

PAGES


ロキとともに見る都市伝説





 時空を駆け巡る物語なだけあって、歴史的な事件が小ネタとして挿入されるのも本作のおもしろいところ。TVAのエージェントであるメビウスによって指摘されたロキの昔のいたずらに、「D.B.クーパー事件」が登場する。これは1971年に実際に起こった未解決のハイジャック事件で、黒いスーツに黒いネクタイ、真珠母のタイピンを身に着けた、至ってスマートで礼儀正しい人物が、ブリーフケースにあるという爆弾をちらつかせるだけでボーイング727をハイジャックし、当時の金額で20万ドルの身代金を手に機上からパラシュート降下で脱出、逃亡したという、まるでジェームズ・ボンドのアバンタイトルのような事件である。この優雅な犯人は終始落ち着き払い、誰ひとり危害を加えることなく、映画のようなアクションをやってのけ、その後の行方は今に至るまでわかっていない。


 本作ではロキこそがD.B.クーパーだったということが判明する。なによりもトム・ヒドルストンのスマートさが都市伝説化したクーパーのイメージを見事に再現しており、ロキ役とはまた別ではまり役に見える。それも込みで、ロキがD.B.クーパーの正体だったというのはおもしろいアイデアだ。どうやら当時のロキはソーやヘイムダルとの賭けに負けてこんなことをする羽目になったらしい(地球のお金が必要だったのか、単純な罰ゲームなのかは不明)。飛行機から飛び降りたロキはパラシュートを開くことなく、アスガルドからの転送ビームに拾われて空中で姿を消すが、その際にある程度の枚数のお札が取り残されて宙を舞う。これは事件から9年ほど経った1980年、コロンビア川沿岸で身代金の紙幣の一部が発見されていることを考えてのことだろう。細かい。ただ、昼間の空に消えたロキとは異なり、クーパーが飛行機から脱出したのは夜間だったそうである。


 もうひとつ語っておきたいのはシーズン後半、TVAが剪定した変異体やイレギュラーな物体が追放される掃き溜めのような空間、「虚無」でのシーン。ここでは主人公同様にTVAに変異体として睨まれた各宇宙のロキたちをはじめ、建物や乗り物など様々なものがうち捨てられており、中には廃墟同然に朽ち果てたアベンジャーズ・タワーや、コミックに登場するサノス専用のヘリコプターなども見つけることができる。文脈から考えれば、時間軸にあってはならないものが送り込まれくる場所。捨てられているものは全て、なんらかの形で神聖時間軸に反した存在なのだろう。


 そんな虚無空間に、軍艦が丸ごと送り込まれてくる。船体には「USS ELDRIDGE」の文字。駆逐艦エルドリッジと言えば、戦時中に行われたとされるステルス実験、フィラデルフィア計画だ。特殊なテスラコイルによって発生させた磁場で軍艦を包み、レーダーに映らなくするという実験だが、実験台になったのがこのエルドリッジだったと言われている。「言われている」というのは、これが都市伝説に過ぎないから。流布している内容によれば、実験中に磁場で包み込まれたエルドリッジはレーダーに映らなくなったばかりかその場で光に包まれて姿を消し、フィラデルフィアから2,500キロ以上離れたノーフォークまで瞬間移動したとされる。


 果たして虚無空間に現れたエルドリッジはその瞬間移動によってやってきたのか、実験の成功によってTVAに剪定されてしまったのか。エルドリッジはその後1990年代に除籍、スクラップとなっているが、TVAによって対象が剪定されたあとの時間軸は、問題が起こる前の状態にリセットされるので、変異体となってしまったあのエルドリッジが、フィラデルフィアでやらかしてしまったのは間違いないだろう。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. NEWS/特集
  3. 「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】